元札幌地検 検事正 小林永和先生からはがきが来た。

 小林永和先生は,私と同じく裁判員法延期・廃止に熱心に取り組んでおられる方。政治的にはかなり右だと思う。右翼の論客が書いた文章って,(私のような陰々滅々な文章と違って)元気が出てくる文体で言っていることもきっぱりてきぱきしていて,良いなぁと思う。檄文というのは,こういうのを言うのだろうか?

 昨日,東響コーラスのオーディション不合格通知が届き,妻から「反省しろ」といわれて,しょんぼりしているのが,小林先生のはがきで,かなり励まされた。裁判員という天下の悪法を潰すという点では,思想信条の違いなどたいした問題ではない。

 全国の法曹よ「裁判員制度反対」に奮起せよ
 莫大な税金を浪費し,国民に大負担をかけて治安を乱す。
 最高裁たるものが,膨大な広報宣伝費を浪費して会計検査院から咎められたり,国民の八割以上が本音では裁判員を嫌っているのに,自分勝手にごまかし「六割が賛成した」と発表し,また法務・検察も捜査・公判そっちのけで,全国に「サイバンインコ」など六〇も馬鹿げた宣伝キャラクターを作り,法務大臣に着せて喜ぶなど「これが治安を預かる法曹か」と嘆かわしくて血涙が止まらない。
 だが,最近新潟と栃木の弁護士会が多数決で「裁判員制度施行延期を」との決議をしたことは,正義感に燃える良識派弁護士の歴史的快挙だ。今からでも遅くない。全国の弁護士会も同様の決議をして,日弁連を動かし,裁判員制度の施行を当面二年程度延期させ,抜本的改正ないし廃止を実現させようではないか。
良識派の各位に急告するため,葉書にて失礼。(平成二〇年五月記)(住所略)
東京弁護士会 弁護士 小林永和
(修習十五期,検事三十三年,元札幌検事正など。「正論」誌等に反対論文多数掲載)

 私宛の葉書には,以下の肉筆の添え書きがあった。
 先日は「財界にいがた」の玉文拝見。栃木が続きましたね。今後ともよろしく.
(玉文ではなく有能な記者の記事なんで,私はインタビューに応じて好き勝手なことをいっただけなんです)。

裁判員と徴兵制

 「裁判員は徴兵制復活への布石」といわれている。こういうのは,ちょっと煽りスローガンぽくて,私的センスでは嫌なのだが,しかし,裁判員と徴兵とは確かに類似している面がある。

1 民衆が国家権力の一翼を担わされる。
 「戦争」「裁判」は一番峻烈な国家権力作用である。統治主体???
2 国家の名において,人を殺す。
 「戦争」による「敵兵の殺戮」と「裁判」による「死刑」はどちらも「国家の名による最大の暴力」である。違法性はないとされているが・・・。
3 義務・神聖なる権利
 徴兵は,明治憲法下において,「臣民の義務であると同時に栄光ある権利である。」とされていた。この思想は,佐藤幸治・四宮啓らが「裁判員イデオロギー的基礎」として口にする「統治主体」とどれほどの違いがあるのだろうか?
 
 最近ある人と会話して,「4」を着想した。「場合によっては殺される」ということである。
4 殺されても文句は言えない
(1) 兵隊は,運が悪いと敵から殺されてしまう。裁判員も,敵(被告人や関係者)から殺されてしまうことはあり得ることだろう。

(2) 兵隊は,戦争体験のトラウマを一生引きずる。精神的には瀕死といって良かろう。同じように,裁判員は,法廷体験のトラウマを一生引きずる。

4−1
 徴兵で殺されたり,傷ついた人は,後日国家から手厚く保護される。国立墓地に埋葬されたり○○神社の「神」とされたり・・・。軍人恩給ももらえる。これに反し,裁判員には同様の補償はない。そうすると,徴兵制より,裁判員制の方が,「犠牲者に対する配慮に欠ける」という結論になろう。