裁判員制 担当弁護士「違憲」

http://mytown.asahi.com/niigata/news.php?k_id=16000001001300005

 上記報道にかかる意見書をアップします。
 この件に関する詳細は,後刻補充します。

意見書
平成22年1月29日
新潟地方裁判所 刑事部 御中

弁護人 弁護士 郄(高)島 章

強制わいせつ致傷
被告人 XXXXX

 上記被告人に対する頭書被告事件につき,以下のとおりの決定を求める。

申立ての趣旨
 本件について,裁判員及び補充裁判員を選任せず,本件を裁判官3名の合議体で審判する。
との決定を求める。

申立ての理由

 当弁護人は,「裁判員の参加する刑事裁判に関する法律(平成16年法律第63号,以下「裁判員法」という)」の全部を日本国憲法(以下「憲法」という)に違反するものと思料する。その理由は次のとおりである。
憲法80条1項違反
 裁判員法の定める裁判員制度は,一般国民に裁判官の権限を持たせて裁判に参加させる参審制の一種であるが,憲法には第6章「司法」その他に参審制についての規定が全くなく(陪審制についても同様)裁判官の任命方法,任期,身分保障等について専門の裁判官のみを予定しているところから,憲法は参審制すなわち裁判員制度を容認するものではないと解するのが相当である。
 特に,裁判員法によれば,裁判員(補充裁判員を含む。以下同様)はくじで選ばれた裁判員候補者を母体として,その中から具体的な事件ごとに,くじその他の方法により選任されるが,裁判官とともに裁判に関与し,評議においては裁判官と同等の評決権を有するとされているから,裁判員は,実質的には裁判官に他ならない。このことは,憲法80条1項の「下級裁判所の裁判官は最高裁判所の指名したものの名簿によって内閣でこれを任命する」との規定に明白に違反する。
憲法37条1項違反
 裁判員は,その氏名も住所も公表されず,判決に署名もせず,判断に全く責任を問われることのない者であり,しかも裁判外の情報により判断を左右する裁判員がいることは避けられず,このような者が参加した裁判所は,「憲法37条1項が被告人に保障する「公平な裁判所」と言うことはできない。
憲法76条3項違反
 評議に関する裁判員法67条によれば,裁判官3人の意見又は裁判官2人(裁判官3人の中の過半数)の意見よりも,裁判員らの意見が多数のゆえで優越する場合がある。例えば,裁判官3人が有罪の意見であっても,裁判員5人が無罪の意見であれば結論は無罪となり,裁判官2人が無罪の意見であっても裁判官1人裁判員4人が有罪の意見であれば,結論は有罪となる。これは,裁判官が裁判員の意見に拘束されることを意味し,憲法76条3項の「すべて裁判官は,その良心に従ひ,この憲法及び法律にのみ拘束される」との規定に明白に違反する(この規定にいう「法律」には,違憲のものが含まれないことは当然である)。
憲法32条違反
 憲法32条は,「何人も,裁判所において裁判を受ける権利を奪はれない」と規定する。この規定に言う「何人も」のなかには刑事被告人も含まれるが,ここに言う「裁判所」とは,憲法第6章「司法」その他の規定に適合したものを意味することは当然である。ところが,裁判員法の定める裁判員の参加した裁判所は,以上に述べたように憲法に違反するものであり,しかも,裁判員法上,被告人はこのような裁判所の裁判を拒否し,裁判官だけによる裁判を求めることはできないから,裁判員法は,憲法32条の保障を侵害するものという他ない。
裁判員候補者及び裁判員等の基本的人権の侵害
 国民は,基本的人権として自由権,苦役に服させられない権利,思想及び良心の自由,信教の自由,財産権の不可侵等が保障されている。裁判員法は,裁判に参加したくない者を含めて国民に裁判参加を義務づけているものであり,この点も違憲という他ない。
6 結論
 以上から,裁判員法は,その全部が憲法違反であるから,本件を裁判員によって審理することは相当ではない。したがって,本件については裁判員を選任せず,裁判所法26条の規定に従い,裁判官3人で構成する合議体で審理することが相当である。