裁判員制度と法廷通訳

 これまで20件を超える外国人が依頼者の刑事事件を受けてきて,法廷通訳の問題でもめた事件も少なくない。パキスタン人が依頼者の事件(高裁で無罪判決)で,一審でウルドゥー語の通訳人がついたのだが,インド訛りのウルドゥー語で「津軽のばあさんと江戸っ子が話しているようなもの(傍聴人談)」であった。(())
「法廷通訳に問題がある」という事態は,被告人やその支援者・弁護人にある程度の語学能力(日本語と現地語双方)がないと見逃してしまう。だから,「法廷通訳に問題がある」ということが判明しないまま処理されている事件はかなりあると思われる。
 従前の職業裁判官による裁判であれば,問題が判明したらその日の審理を打ち切り,数週間後に新たな通訳人で審理を続行するということもできた。しかし,連日開廷の裁判員裁判では,そういうことは絶対にできない。
 覚せい剤輸入など,法廷通訳が入る裁判員事件も少なくない。この主事案は,否認事件も多いし,細かいニュアンスの証言で事実認定が決まる事件も多い(私が経験した事件では,ロシア語を「気をつけて(中身は向こうが知っている)」と訳すべきか「気をつけろ(中身は向こうが知っている)」と訳すべきかで問題が生じた。結局ロシア語のニュアンスは分からない-信用性不十分-で「輸入」の起訴事実が,それより軽い「所持」に落ちた)。
 外国人事件は,ただでさえ冤罪事件が多い。裁判員では,冤罪のヤマになってしまうだろう。

注 この事件については,青法協通信で,共同弁護人斎藤裕さんのレポートがある。
 問題の榊五十雄裁判官は,新潟地裁刑事部部総括から,横浜地裁相模原支部刑事係に栄転され(支部長でなく,係判事),その後依願退官,公証人に転身された。
http://www.seihokyo.jp/395.htm
一部抜粋

2 二〇〇二年二月一三日には、新潟地裁に盗品等有償譲受け被告事件として起
訴されました。         
新潟地裁では榊五十雄裁判官が当初から担当しましたが、毎回のように不当な
訴訟指揮が行われました。
新潟地裁の審理において通訳をしていたのはバングラディシュ人の方でした。
よって、パキスタン出身の被告人にとっては不適切な通訳人と思われました。
そのため、弁護団の通訳問題担当の大貫弁護士が、法廷で、書証の証拠調べに
先立ち、榊裁判官に通訳人の差し替えについての意見を言わせるよう要請をし
ました。ところが榊裁判官は、「証拠調べが終わってからにして下さい」など
として意見を言うことを認めませんでした。しかし、証拠調べ自体について適
切な通訳が行われなければならないはずですから、証拠調べが終わってから意
見を言いなさいというのはナンセンスであり、大貫弁護士はあくまで意見を言
わせるよう榊裁判官に求めました。
すると、榊裁判官は、大貫弁護士に対して、発言禁止命令を出し、大貫弁護士
がそれにも従わないでいると退廷命令を出し、それにも従わないでいると「監
置」と監置のための拘束命令を発しました。その他にも弁護団員について「売
名行為」と罵るなど、信じられないような言動が相次いだのです。