私はまさぞうを決して許さない

上告受理申立理由書.


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罪名 賭博開張図利(予備的訴因 賭博開張図利幇助) 被告人 XXXXX 上告受理申立理由書 平成24年3月 日 最高裁判所 御中 弁護人 弁護士 �癲島 章 弁護人 弁護士 鯰越 溢弘 第1 はじめに 原判決は,刑訴法392条2項(控訴裁判所における職権調査)の解釈に関する重要な事項を含むものであるから,御庁において事件を受理し,相当な裁判をなされたい。 第2 訴訟の経過 本件は,第一審公判の終局段階で,賭博開張図利(共謀共同正犯)の本位的訴因に予備的訴因(賭博開張図利幇助)が追加されたものである。第一審は,本位的訴因は認定し得ないとした上で予備的訴因を認定し,被告人を懲役10月(執行猶予5年)に処した。 第一審判決について,検察官は控訴せず,被告人のみが控訴し,控訴趣意書において理由不備,訴訟手続の法令違反,法令適用の誤り,量刑不当を主張した。なお,被告人としては,第一審判決に事実誤認はないと判断したので,この主張はしていない。 原審の第1回弁論は,平成24年2月1日に実施されたが,本位的訴因については,何ら釈明も裁判所からの見解表明も行われず,また,事実取調もなく,判決期日が指定された。  原審は,原判決を破棄自判し,被告人に対し改めて懲役10月(執行猶予5年)を言い渡した。  原審は,「被告人に賭博開張図利の幇助犯が成立するとした原判決には判決に影響を及ぼす事実を誤認した違法があり,所論のその余の点を判断するまでもなく,原判決は破棄を免れない」と判示し,本位的訴因である賭博開張図利の共謀共同正犯を「罪となるべき事実」として認定したものである。 第3 いわゆる攻防対象論 1 はじめに 本件は,控訴審における職権調査を定めた刑訴法392条2項に関する重要な事項を含む。いうまでもなく,「職権調査の限界」としてのいわゆる「攻防対象論」である。 以下,攻防対象論に関し従前の判例等を整理して,本件が事件受理に値する重要案件であることを明らかにし,さらに本件に関する弁護人らの意見を述べることとする。 2 判例の整理 (1) 科刑上一罪 攻防対象論に関する最高裁判例は,いわゆる新島ミサイル基地事件(最大決昭46・3・24刑集25−2−293)を嚆矢とする。これは,牽連犯または包括一罪に関する判例である。また,観念的競合に関する判例としては,いわゆる大信実業事件(最判昭47・3・9刑集26−2−102)が存する。 (2) 本位的訴因と予備的訴因 本位的訴因と予備的訴因の関係にある訴因については,いわゆる船橋交差点事件(最決平1・5・1刑集43−5−323)がある。 (3) 縮小認定 第一審において傷害の程度について訴因変更なく縮小認定を行い,被告人控訴による控訴審において訴因(公訴事実)どおりの認定をすることが問題となった事例としては,東京高判平15・10・16判時1859−158,福岡高判平12・9・5高刑速報(平12)195が存する。 <(4) その他 その他攻防対象論の関係判例としては,ホームレスナイフ示兇脅迫パチンコ店侵入事件(最二平16・2・6,判時1855−168)などもあるが,同判例は,論点が拡散しすぎている嫌いがあり,また,攻防対象論の典型例と様相を異にする面があるので,検討は省略する。> (5) ここまでのまとめ 新島ミサイル事件は最高裁判所大法廷決定であり,攻防対象論に関して揺るぎない地位を占める判例である。同判例及び大信実業事件判例によって,「科刑上一罪の一部無罪」について「攻防対象論が適用される」という判断は,確定したと言って良い。その余の判例・裁判例は,新島ミサイル事件を不動の判断基準として,同判例の趣旨が当該事例に適用されるか(攻防対象の範囲内か範囲外か)という枠組みで論じられているものと整理できると考えられる。 各裁判例の結論だけを述べると,「科刑上一罪」は「攻防対象範囲外」,「本位的訴因と予備的訴因」は「攻防対象範囲内」,「公訴事実に対する縮小認定」も,同じく「攻防対象範囲内」と整理できるように思われる。 3 本位的訴因・予備的訴因の場合 (1) はじめに 本件は,本位的訴因と予備的訴因の事例である。この点に着目すれば,「船橋交差点事件」と同様であり,控訴審において本位的訴因を認定することは可能とも考えられる。 しかし,この結論は早計であろう。重要な視点は,両訴因の関係である。以下,判例,実務家の見解等を照会し,併せて関し弁護人らの意見を述べる。 (2) 非両立関係の場合 「船橋交差点事件」は過失の態様について証拠関係上本位的訴因と予備的訴因とが構成された事例であり,予備的訴因Bが成立すれば本位的訴因Aは(実体的真実は一つであるから)成立せず,逆に本位的訴因Aが成立すれば,予備的訴因Bは成立しない関係にある。 このような非両立関係の訴因について,第一審で予備的訴因が認められ本位的訴因が認められなかった場合,検察官の立場を考えてみよう(以下,説明の便宜上本位的訴因を窃盗,予備的訴因を詐欺として説明する)。 検察官としては,窃盗の本位的訴因を認めなかった第一審に不満は残るであろう。しかし,だからといって,検察官が第一審を不服として控訴した場合,検察官は控訴審において窃盗の事実を主張・立証することとなる。これは取りも直さず,詐欺を認めた第一審は事実誤認であると攻撃し,その破棄を求めるということである。検察官としては,若干の不満はあるものの控訴までして原審の有罪判決を攻撃する必要はないと考え,控訴を手控えるという態度も考えられるところである。検察官が控訴を手控える一方,被告人のみが詐欺の認定を不服として控訴したとしよう。そして,被告人が「私が本当にやったのは窃盗です」と控訴審で弁解し,それに沿う証拠もあったとしよう。 このような状況を考えた場合,控訴審は,本位的訴因である窃盗罪で被告人を有罪としなければいかにも不都合であろう。検察官の真意も「詐欺の認定には不満が残るが控訴するほどではない。しかし控訴審で詐欺が認定されない場合,無罪では不都合なので,窃盗の事実で有罪認定してもらいたい(むしろそれがベストの認定だ)。」というものと考えられる。このような意味で,検察官は,窃盗の訴因について訴追意思を実質上放棄したものでなく,−いわば念のため−維持しているとみることができる(控訴審では,ある意味本位的訴因と予備的訴因が入れ替わり,第一審の本位的訴因(窃盗)は,第一審の予備的訴因(詐欺)不認定に備えての−念のための予備的訴因−に回ったものという言い方ができよう)。 つまり,窃盗の訴因は,「攻防対象から外れない」としなければならない。以上が,<「船橋交差点事件」のような本位的・予備的訴因の事例においてには新島ミサイル事件の法理は妥当しない。>という最高裁判例の論理的基礎があるものと考えられる。 (3) 両立または大小包含関係の場合 次に本位的訴因と予備的訴因とが両立または大小関係にある場合を考察する。 典型は,本位的訴因が殺人,予備的訴因がと重過失致死の場合である。また,本位的訴因が「住居侵入窃盗」予備的訴因が「住居侵入」,あるいは,本位的訴因が「弾丸を一発発射しAとBを殺した(観念的競合)」予備的訴因が「弾丸を一発発射しAを殺した」という事例もこれに当たる(もっとも,このような場合は,わざわざ明示的に予備的訴因を掲げないのが通例であろう。「大きな訴因(殺人既遂)」の主張(訴因)には,潜在的に「小さな訴因(殺人未遂・予備)」の主張が含まれているからである。実は,新島ミサイル事件は,そのような事例と言える−暴処法違反と傷害の牽連犯の訴因には,潜在的に「傷害(単純一罪)」の主張が包含されている。しかし,「暴処法違反及び傷害」という本位的訴因と「傷害」という予備的訴因を明示的に主張することも可能である−)。さらにいえば,殺人罪と殺人未遂も同様である。 このような場合,いずれの事例でも,非両立関係の場合と異なり,一方の訴因が成立すると他方の訴因が成立しないという関係にはない。のみならず,予備的訴因さえ成立しない場合,本位的訴因が成立する余地はない。 このような両立・大小包含関係の訴因について,第一審で予備的訴因が認められた場合,検察官の立場を考えてみよう(以下,本位的訴因は「住居に侵入し窃盗した」予備的訴因として「住居に侵入した」として説明する)。 検察官は,窃盗の本位的訴因を認めなかった第一審に不満を持つであろう。そこで,検察官が第一審を不服として控訴した場合,検察官は控訴審においてあくまで窃盗と住居侵入両罪(牽連犯)を主張・立証することとなる。しかし,その攻撃は,「窃盗を認めなかった原審は事実誤認である」という点にあり,非両立関係の訴因と異なり,「住居侵入を認めた原審は事実誤認である」と主張する必要はない。非両立関係の訴因の場合は,(若干の不満はあるが有罪認定をしてくれた)原審判断と矛盾する主張を検察官は余儀なくされるが,両立・大小包含関係の訴因の場合は,そのような事態にはならない。 上記事例で,被告人のみが住居侵入を認定した第一審判決を不服として控訴したとしよう。そして,被告人が「私は住居に侵入した上,窃盗もしたのです。だから原審は間違いです」と控訴審で弁解し,それに沿う証拠もあったとしよう。 このような弁解は,−非両立関係の訴因と異なり−「無意味な弁解」であることはいうまでもない。このような弁解があったとしても,控訴審は,本位的訴因である「住居侵入窃盗」で被告人を有罪としなくても「住居侵入」を認定し,被告人の控訴を棄却すれば良いのだから,格別の不都合はない。検察官の真意も「住居侵入のみの認定には不満が残るが控訴するほどではない。」という点につきる。また,「予備的訴因不認定の場合に備えて−念のため−本位的訴因も維持しておこう」という関係にも立たない。つまり,「住居侵入」が不認定の場合,「住居侵入窃盗が成立する」という関係には立たないのである。 (4) ここまでのまとめ 両訴因が非両立の場合,検察官は,控訴審における「予備的訴因不認定」に備えて本位的訴因を攻防の対象として残しておくという意思が働く。反面,両訴因が両立し大小包含関係にある場合,「予備的訴因不認定に備えて」ということはあり得ないのだから,検察官が控訴しなかったのは,本位的訴因について攻防の対象から外した(訴訟追行を断念した)とみるべきである。  この点は,船橋交差点事件第二次控訴審判決も「この場合には,量的に可分な複数の事実の一部ではな(い)」「新島ミサイル判例及び大信実業判例に示された理論が適用される範囲は,有罪とされた部分と無罪とされた部分とが可分な場合,すなわち,右各部分がそれぞれ一個の犯罪構成要件を充足し得,訴因としても独立しうる場合であって,具体的に右要件を充足しうるのは,右各部分が実体法上の数罪である科刑上一罪(観念的競合または牽連犯)を構成する場合及び包括一罪のうち実体法上の数罪に準じて考えられるような実質を有する特殊な関係を構成する場合に限られる」と判示している。 本事件に関する調査官解説も同様であり,山田利夫判事は,本位的訴因と予備的訴因がいわば大小の関係にある場合,本位的訴因は攻防対象から外れることを強く示唆している(平成元年最判解説刑事篇126頁)。また川上和雄元検事も同一事実の縮小認定に関し「(収賄罪における)約束も収受も共に訴因として検察官が主張しているのに,その前段階的行為の訴因のみ認定されながら,発展段階を主張して不服申立をしないことは,いわば,前段階の事実だけを訴因としたのと同様に解さざるを得ず,検察官の主張自体,前段階的事実でとどまっていいるとみられてもやむを得ないであろう。その意味で,刑に違いがある(予備と既遂)か否か(供与と交付)にかかわらず,事実自体が不控訴の時点で縮小されたことになり,本決定(船橋交差点事件)の趣旨は及ばない」としている(「予備的訴因と攻防対象論」判タ705−62)。 4 本件の各訴因は,両立可能の大小包含関係にある (1) 本件において,本位的訴因は賭博開張図利,予備的訴因は賭博開張図利幇助である。 一般に(共謀)共同正犯と幇助犯の区別は,理論的・実際的区別が難しいとされているが,粗っぽくいえば要は程度問題であり,「正犯行為への加担」が幇助犯の構成要件であり,「正犯行為への加担プラスアルファ(共謀・共同実行の意思・重要な役割等)」が共同正犯の構成要件と言えよう。したがって共同正犯の訴因と幇助犯の訴因とは,両立可能の大小・包含関係にある。  この点,第一審判決も「訴因変更の可否」に関する説示で「本位的訴因と公訴事実の同一性があると判断しうる事実で,また訴因変更手続きを経ずして判決することが可能とも考えられる事実」「予備的訴因が作為犯であることからしても,主位的訴因と予備的訴因において,外形的事実に大きな変更があるものではなく」「検察官が幇助罪の主張をするのであればあらかじめ争点化しておくことは,望ましい面があった」「N(子分)との共謀が成立しなければ,賭博開張図利罪の共同正犯は成立しない関係にあり」として,両訴因が大小・包含関係にあったことを認めている。 さて,前記の理論的考察を当てはめてみよう。?検察官において本位的訴因の成立を主張して控訴しても,原審の有罪認定と矛盾する主張をする必要はない(「幇助の認定はそれ自体妥当であるが,本件は共謀も認められるので共謀共同正犯を認めるべきである。」と主張すれば足りる)?また,「予備的訴因(賭博開張幇助)が認められなかった場合に備えて,本位的訴因(賭博開張図利)を維持する」という関係にも立たない。予備的訴因が認められない場合は,本位的訴因が認められる余地はないからである。?控訴審において被告人が「本当はN(子分)に指示命令して賭け麻雀をやらせたのです。幇助という認定は誤りです」と弁解したとしても,それは無意味である。このような弁解によって,第一審の「幇助」が不成立(無罪)となる可能性はない。 以上の諸点から見て,検察官が賭博開張図利(共謀共同正犯)を主張して控訴しなかったのは,そのような訴訟追行を放棄したからであり,賭博開張図利は,控訴審において攻防対象から外れたとみるべきである。 したがって,本件について,本位的訴因(賭博開張図利)を認めた原判決は,当事者間において攻防の対象から外された訴因について有罪を認めたものであり,新島ミサイル事件最高裁決定に違反し,刑事訴訟法392条2項(控訴裁判所における職権調査)の解釈を誤り,その限界を逸脱したものである。 本件は,上告審として事件を受理し,原審判決を破棄すべき事案である。 (2) なお,第一審判決は,一種の縮小認定であると捉えることもできる(「正犯行為への加担は認められるが共謀は認められない」という判断)。縮小認定の第一審判決に対して,被告人のみが控訴した場合,控訴審において公訴事実どおりの認定をして良いかについては,福岡高判平12・9・5高刑速報(平12)195,東京高判平15・10・16判時1859−158の裁判例があり,積極である。 これらの判決例から見れば,本件においても控訴審は当初の公訴事実(賭博開張図利)どおりの認定をして良いものとも考えられる。しかし同判決の事案は,控訴審における職権認定によっても罪名は変わらない事案であり,かつ明示的な予備的訴因追加があった事案ではない。 他方本件は,縮小認定と当初の公訴事実どおりの認定では,罪名が異なってくる(賭博開張図利,賭博開張図利幇助)。また,上記2判例と異なり,予備的訴因が明示的に主張された事案である。この点で,本件と上記2裁判例とは事案を異にしており,やはり新島ミサイル事件の趣旨が妥当する事案である。 5 不意打ち 「攻防対象論」の適用が論じられている各判例を見ると,「その適用なし」とされる事例は,検察官の「本位的訴因は維持する」旨の釈明等,審理の過程で何らかの形で,訴因が「攻防対象化(争点顕在化)」されているものが多い。 新島ミサイル事件の反対意見においても「あらかじめ,公判において,検察官および弁護人に対し,第一審判決中の無罪部分についても裁判所の職権調査を及ぼすことがあり,これについて意見があるならば,その点についても弁論すべき旨を告げ,もって当事者の注意と関心を無罪部分にも向けさせ,これを弁論の対象たらしめる措置をとることが,訴訟手続として必要であると考える(長部謹吾裁判官)」と述べられている。 この見地から本件訴訟の経過を見ても,原審公判において裁判所からの上記のような注意喚起も検察官からの釈明も全くなく,判決において突然に本位的訴因を認定したものである。 本件について,百歩譲って「本位的訴因も攻防対象の範囲内」であるとしてしても,原審には,この点で訴訟手続上の著しい瑕疵がある「不意打ち認定」というべきである。 第4 終わりに 以上のとおり,本件は法令の解釈に関し重要な事項を含み事件であり,御庁におかれては事件を受理した上,相当な判断をなされるよう申し立てる。事件受理の通知があった後は,本理由書を補充する趣旨で追加理由書を提出することも検討している。また,事案の性質に鑑み,担当調査官・主任裁判官との面談も申し入れる予定である。  なお,原判決及び第一審判決は,以上に述べた事項の外にも,著しく正義に反する事実誤認・訴訟手続の法令違反・法令適用の誤り等の上告理由が存する。この点については,おって上告趣意書において主張する。