模擬裁判提出書面

最近各地の地方裁判所において,「裁判員裁判」及び「事前手続」の模擬裁判が実施されている。
私は,「裁判員裁判」も「事前手続(刑訴法・同規則改正)」も悪法であると考えているのだが,裁判所の前でハンガーストライキをしても仕方がないので,協力することとした。

以下,本日,模擬裁判で提出した書面の一部を公開するものである。
かなりの部分は,「ミランダの会」からパクッたものであるが,著作権でクレームはないと思料される。


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平成17年(模)第2号
           (罪名 殺人未遂)
                 被告人 草野 新熊

            意見書            
    (被告人の着席位置及び服装について)

平成17年10月28日
ウラジオストック地方裁判所 刑事部 
裁判長 八墓八子 殿


 題記の件について,弁護人らは,下記のとおり意見を述べる。

弁護人弁護士 Barl Karth     印
             (主任)
    同  団藤 重子   印
    同 アンドロメダの大王 印

           

            意 見 の 趣 旨 

1(1)  被告人の着席位置を弁護人席の主任弁護人のとなりに配置され,メモ用紙・筆記用具の使用を許可願いたい。
(2) 被告人の戒護にあたる拘置所職員は,被告人と弁護人の間の会話が聞き取れない位置に配置願いたい。
2 被告人にスーツ・ワイシャツ・ズボン用ベルト・ネクタイ・革靴の着用を許可願いたい。

                意 見 の 理 由

1 「意見の趣旨1」について
(1) 被告人の権利の視点から
 刑事被告人は,公判開廷中においても随時弁護人と自由かつ秘密にコミュニケーションする権利を当然に持つのであり,この権利は憲法37条3項並びに市民的及び政治的権利に関する国際規約14条3項(b)が保障する弁護人の援助を受ける権利に包含される重要な権利である。
 公判の進行を妨げずに被告人が自由に適宜この権利を行使するためには,被告人の着席位置を弁護人席の弁護人のとなりに配置する必要がある。裁判官の正面のベンチに被告人を配置(いわゆる「お白州型」)すればこのコミュニケーションが不可能となることは明らかである。また,弁護人席の前では,被告人は体をのけぞらせないと弁護人と話ができないので十分なコミュニケーションをすることができない〔渡辺修「被告人の防御権と拘置所の戒護権」『中山研一先生古希祝賀論文集(第5巻)』95,112頁(1997年)〕。
 拘置所の職員が被告人の両脇に付き添うことは,憲法や条約が保障した被告人と弁護人との自由かつ秘密のコミュニケーションの権利を侵害するものであることが明らかである。のみならず,このような「サンドイッチ戒護」は,被告人が暴力を振るいあるいは逃亡を企てた場合以外には公判廷においては「身体を拘束してはならない」ことを定めた刑事訴訟法287条1項及び2項に違反する(小田中聡樹他編著『刑事訴訟法』,現代人文社,1998年,253頁)。
(2) 裁判員裁判の視点から
刑事訴訟における被告人の地位は,単なる証拠方法ではなく,訴訟における当事者である。これは,戦後刑事訴訟法の自明の原理であるが,裁判員裁判において,この原理は,ヴィジュアルな形として表現されなければならない。すなわち,前記「お白州型」は被告人が罪人(ざいにん)であるとの印象を裁判員に与えかねない。また,弁護人席の前に被告人席を置くことも,「被告人が検察官と対等の関係にある当事者である」との理念に反する印象を裁判員に与えかねない。ましてや,拘置所の職員が被告人の両脇に付き添うことは,裁判員に対して,これらの悪印象を助長させかねないものである。

2 服装について
(1) 服装は,それを身につける者の人格の発現であり,服装の自由は,憲法13条の人格権として保護されるべきである。もとより,「公共の福祉」(刑事法廷にあっては,a法廷の威信,b法廷警察権・自傷他害の防止等)の観点から制約があるけれども,aに関しては,スーツ・ネクタイ等の着用は,法廷の威信を高めこそすれ低めることはない。bに関しては,裁判長・拘置所職員の職権発動により適宜の措置を講じうる筈である。
(2) のみならず,裁判員裁判にあっては,「服装が他者に与える印象」や「服装がもたらす自己意識」は,軽視できないものである。すなわち,
ア 被告人の視点から
およそ人が刑事裁判の当事者(被告人)になるということは,一生に何度もないことであり,いわば「晴れの場」である。「晴れの場」にそれに相応しくない服装を強いることは,その者に「劣等感」・「恥」の意識をもたらすこととなろう。裁判員・裁判官・書記官・検察官・弁護人らが相応な服装をしているのに,一人被告人のみが惨めな服装をしていたとすれば,被告人は,恥ずかく惨めな気持ちになってしまうことは,見やすい道理である。また,被告人は「裁判員から自分がどのように見られているのだろうか」と不安になってしまうことも,当然である。
裁判員の視点から
人は,他者を服装等の外見で判断してしまいがちである。例えば,人は,服装によって,その人の身分・性格等をステレオタイプ的に判断してしまうものである。裁判員の予断を防止するためにも被告人の服装は重要である。

3 結論
 よって,前記「意見の趣旨」のとおり申し出る。
 なお,上記の各申し出は,訴訟指揮権・法廷警察権を有する裁判長が判断せらるべき事項であるが,法廷においてこのような事項に関し弁護人らが裁判長に異議を述べたり,職権発動を促したりすることは本意ではないので,公判前整理手続の段階で,意見を申し述べた次第である。