検察官冒頭陳述(「被害者」保護・裁判員制度対策?)

平成19年(わ)第XX号 XX,XX致死 

意見書        
(冒頭陳述のあり方について)
被告人 XXXXXXXXXXXXXXX
 
 上記被告事件について,冒頭陳述に関し,弁護人の意見を述べる。
 
平成19年6月XX日

主任弁護人 弁護士 Barl-Karth


N方裁判所 刑事部 御中
N地方検察庁 検察官 御中

1  近時,検察官による冒頭陳述の方法・内容について,日弁連等において問題となっています。
 当弁護人(Barl-Karth)は,本年6月1〜2日,日弁連刑弁センター委員会の会議に出席しましたが,同様の報告がありました。例えば,業務上過失致死(交通事故)の事案で,「冒頭陳述メモ」により以下のような陳述がなされた,との報告がありました。
(1) 「被害者について」という項目が立てられ,「被害者は,妻,長女の家族5人と一緒に生活して専業農家を営んでおり,糖尿病の薬を服用していた以外は,病気等に罹患しておらず,何不自由なく日常生活を送っていた。被害者は,社交的な性格で,地域の民謡の会に所属し,会長を務めた経歴を有しており,毎週1回妻を同乗させて民謡の会に通っていた。また,被害者は6人兄弟の長男で,死亡した二男以外の弟たちが毎年正月,家族と一緒に被害者方を訪れ,にぎやかな正月を送っていた。
被害者の日ごろの運転状況は,交通法規を遵守し,安全運転に心がけていたほか,老人会の交通安全講習にも参加していた。
(2) 同じく「被害者について」という項目が立てられ,「被害者は,妻,3人の娘,両親及び祖母の家族7人と一緒に生活し,○○デパートフロアー課長として勤務しており,毎日遅くまで仕事をし,定休日にも出張するなど勤勉な毎日を送っていた。被害者は,真面目で部下の面倒見が良く,温厚な性格で,子供を映画や社員旅行に連れて行くなど子供思いの父親であったが,家族そろって旅行に行ったことがなかったことから,本件事故前日,妻に対して「仕事が一段落したら,子供を連れてディズニーランドに行くか」などと話していた。

2 また,裁判員模擬裁判において,
(1) パワーポイントを用いて動画的な冒頭陳述がなされ,裁判員に鮮烈な印象を与えた。
(2) 否認事件が題材なのに,前科の内容が具体的に述べられた。
(3) 被告人の弁解を前提とする反論的な証拠弁論的内容が冒頭陳述でなされた。
という報告もありました。
3 N地裁においても,本年3月1日,業務上過失致傷(交通事故)の被告事件において,パワーポイントを用いた動画的手法を用い,しかも,被害者のスナップ写真が映写されました(たまたま,当弁護人が傍聴したもの)。
4 このような冒頭陳述のあり方は,最近の「被害者」保護の立法や諸施策,平成21年までに実施するとされている裁判員裁判」制度を意識したものと思われます。
 このような最近の検察官冒頭陳述のあり方は,立場により賛否両論があるものと思われますが,本件については,事実関係や法的評価について争いのある事案であり,また,冒頭陳述の最中に異議を述べるのも訴訟の円滑な進行の妨げとなりますので,検察官におかれては,この点を十分に配慮した冒頭陳述をなされるよう要請するものです。



刑弁メール

熱海合宿(冒陳)
6月1−2日,日弁刑弁センターの熱海合宿に参加しました(K委員の代理)。
被害者参加制度」が審議中なのですが,それと関連するのか,検察官冒陳の問題事例が報告されました。
 印刷物は,速やかにPDFファイル化して流す予定です。
で,(話が飛ぶようですが)私とS弁護士とで,公判前整理手続付きの事件を受任しており,「意見書 冒頭陳述のあり方について」を作成提出しました(添付ファイル)。その中で,熱海合宿で報告された「問題冒陳」をほぼそのまま引用しています。

整理手続の際

http://mytown.asahi.com/niigata/news.php?k_id=16000240701160001

をプリントアウトしたものを事実上裁判所に提出しました。

O部長は,「相互の冒陳を事前開示したら如何か。あくまで,当事者間のバーターのお勧めですけど」と整理手続で述べていましたが,検察官(I・Hコンビ)は渋っていました。

こういう検察冒陳が許されるとすると,「被害者は妻子を顧みず連日連夜飲み歩き,不貞を重ね家に帰ると妻に手を挙げる暮らしぶりであった。本件事故は,道路の向こう側に馴染みのホステスが歩いているのを発見した被害者が千鳥足で信号を無視し道路を横断して発生したものである。」みたいな弁護人冒陳も許されることになるでしょう。「善人をはねたら悪い情状,悪人をはねたら良い情状」というのもおかしな話です。
被害者参加制度」が法制化されると,このような冒陳が全国化する危険もあります。
 なお,類似の事例等があれば,ご報告いただくと幸いです。

Bal-Karth