異議は理由がなく棄却が相当

 この言葉(意見)を口にするのは,たいてい検察官である。例えば,以下のような流れ。
1 検察官 自白調書請求
2 弁護人 不同意(任意性なし)
3 検察官 任意性立証
4 検察官 322条1項による取調請求(提示命令)
5 裁判長 弁護人に求意見
6 弁護人 任意性がないので取調に異議あり
7 裁判長 採用決定
8 弁護人 裁判長の処分に異議あり
9 検察官御意見は?異議は理由がなく棄却が相当
10 裁判長 右見てゴニョゴニョ左見てゴニョゴニョ(こういうのも一応合議)「弁護人の異議を棄却する」

 だいたいこんな流れで,自白調書は採用される(この辺は,意外に学者さんもご存じない)。

異議は理由がなく棄却が相当
はこのように検察官の決まり文句なのだが,最近,公判(合議事件−模擬裁判ではない)において,
弁護人の御意見は?
と裁判長から聞かれ,主任弁護人である私は「異議は理由がなく棄却が相当」と意見を述べた。かくして,検察官の乙号証請求のかなりの部分が却下,裁判長の却下処分に対する異議は棄却された。結構刑事弁護の場数を踏んでいるが,この台詞を公判廷で言ったのは初めてだった。なんかクセになるよねこの台詞は(うざったい難癖をバッサリ一言で切り捨てるという爽快感)。

 裁判長は却下決定の理由(異議棄却の理由)は説明しなかったが,おそらくは,裁判員裁判−証拠(書証)の厳選−を意識したものだったのだろう。裁判長は,検察官請求乙号証(不利益事実承認)も採用したのだが,弁護人としては,敢えて当該決定に異議を述べなかった。まぁ,しょうがないよねという感じ。
 証拠等関係カード−書記官により沢山書き込みがなされていて,実はこれを読み解くのは,大変−を見るとなんかニヤニヤしてしまう。
 証拠法の難しい問題一番難しい問題は「伝聞供述! 異議あり!! 証拠排除申請!!!」だと思う。異議申し立てする弁護人も,当該申立に意見を述べる検察官も,これを裁く裁判所も「証拠法」に関する瞬発的学力が試される。上手く裁けない場合,(老獪な)裁判長は「証拠排除するかどうかは,次回期日以降に判断します」とか言ってのらくらしてしまう。
 
 「弁護人 不同意」「検察官 特信書面として請求」「弁護人 異議あり」「裁判長 採用決定」「弁護人 異議あり」「裁判所(裁判長)異議棄却」とかグジュグジュやっていると,証拠等関係カードは細かい字(やスタンプ←「異議あり」というスタンプを書記官がペタンコと押す)で書込がいっぱいになってしまうのだ。カード(実際は,単なるA4の書面で「カード」ではない)に書ききれなくなると,「別紙のとおり」になってしまう。



 よく分からないけど,私が弁護人をやっている刑事法廷は,書記官や若手裁判官の教材になっているらしい。