今の司法修習生ってこんなことも知らないの?(「ボ」経由の話題)

 不動産の二重譲渡の場合,先に登記をした方が優先されるということを知らない司法修習生もいるそうです。9月4日付朝日新聞朝刊 社会面
 もしこの報道が真実であれば,まことにゆゆしい問題です。去年の2回試験で「不動産の即時取得」を認める起案をした修習生がいたというが,やっぱり,57−58期以降,法曹の質は低下しているように思えますね。実際,対立相手方代理人(弁護士 57−58期)は,目を疑うような主張をしたことがあるのです。
 ある離婚訴訟での主張なのですが,(要約すると)「もし,当方依頼者(夫)が親権をとれなかった場合は,意趣返しとして,妻側に800万円の慰謝料支払いを求める」ということを平然と言ってのけるのですね(そんなことをしたら,母親の生活も,親権をとれなかった子どもさんの生活も破綻するのですけど・・・。)「家族法の理念は,愛と平和@前田達明先生」というとことを全然理解していない。裁判官が「その主張はいかがなものか」という表情をして,書記官が,目をまん丸くしていることも,視野に入っていない(アイコンタクトができない)。
 慰謝料請求原因として「殴られた。夕飯を作ってくれなかった。帰りが遅い。浮気をしている」等々の「評価根拠事実」が「間接事実だ」と主張する。はっきり言って,要件事実の基礎的訓練がなっていない。
 もっと言わせてもらうと,57−58期以降の実務家は,オーラルバトル,オーラルコミュニケーションの能力が全然ないと思う。ラウンドテーブル法廷で実に刮目すべき(反語だよ)主張をしゃべりまくる。
 検察官(57−58期)は否認事件が全然できない。露骨な誘導尋問(主尋問において)をして弁護人から異議を言われて,分けの分からない反対意見を述べて,裁判長から「弁護人の異議を相当と認める。検察官は尋問を変えてください」と訴訟指揮されて,恥とも思わない。被告人に対して,「因果関係があるのかないのかどう思うのか」なんて質問をして,またまた「弁護人異議!」裁判長「異議認容」みたいなしょうもない拙劣な尋問をして恬として恥ずるところもない。

 昔話をすると,我々の世代は,「不動産二重譲渡の場合,なぜ,後になった買い主が実体的所有権を譲り受けるのか(民法176条と177条の矛盾した条文)」ということを自分の頭で−もちろん我妻先生の教科書を読みながら−考えていたのですね。例えば,以下のような感じの考え。

 176条によれば,物権の移転は意思表示のみによって生じている→そうすると当該物権は譲渡人の手元から消えてしまった。その後に当該物権を二重譲渡したとしても「ない物は売れない」(譲渡できないはずだ)。→しかるに,177条によれば,物権の「空売り?」によって,譲受人は,(ありもしない)物権を譲り受けたことになる! 一体どういうことになってるんだ!!!!

第176条(物権の設定及び移転)


物権の設定及び移転は、当事者の意思表示のみによって、その効力を生ずる。
*物権変動の対抗要件(一七七・一七八)、本条の特則(一八二−一八四・二六三・二九四・二九五・三〇六・三一一・三二五・三四四、農地三・五、仮登記担保二)、所有権留保(割賦七、宅建業四三)、物権の得喪の準拠法(法適用通則一三2)

民一七七 民一七八 民一八二−一八四 民二六三 民二九四 民二九五 民三〇六 民三一一 民三二五 民三四四 農地三 農地五 仮登記担保二 割賦七 宅建業四三 法適用通則一三2
第177条(不動産に関する物権の変動の対抗要件


不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法(平成十六年法律第百二十三号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。
*不動産(八六1)、登記を要する権利(六〇五・五八一1、不登三、民施三七、土収一〇六)、登記を要しない権利(一八〇・二六三・二九四・二九五・三三六)、登記を要する事項(二五六・二七二・二八一・二八五1・二八六・九四五・九五〇2)、特則(三九五、借地借家一〇・三一、罹災都市一〇・二五の二、農地一八・三二、区分所有一一3)、国税滞納処分の場合(税徴一二一)、効力発生要件としての登記(三七四2・三八七1・三九八の四3・三九八の一七1)、登記すべき権利の準拠法(法適用通則一三1)

「模範六法 2007」(C)2006(株)三省堂
 このような思考の訓練をば基礎理論的・法解釈学的・論理的思考で勉強すれば,「二重譲渡=登記で優劣判断」というのは当然の前提(暗期以前の問題で,まぁ,1+1=2見たいなもの)なのです。

 司法修習生,57−58期実務家の学力低下が,もし本当であるとすれば,日本の法実務界は,お先真っ暗です。



 今日は法科大学院の院生さんのトレーナーをやっていて「不動産の二重譲渡の場合,先に登記をした方が優先されるということを知らない司法修習生もいる」といったら,「そんなことないでしょう。例外中の例外だと思いますよ」と言っていた。