裁判員と政治的左右

 裁判員制度への賛否と政治的立場(保守−右・革新−左)とは理解・説明が難しい微妙な関係がある。これから書くことは,極めてセンシティブであり,筆禍事件になるかも知れないし,苦情も覚悟している。しかし,十数年にわたり,日弁連刑弁センター委員・単位会内の刑事弁護関係委員を務めた者として,内情をある程度説明する責任を感じている。
 新潟県弁護士会には,「派閥」がある。政治的な保守・革新にほぼ対応する派閥である。2月29日の新潟県弁護士会裁判員裁判実施延期決議」に賛同してくれたのは,かなりの部分「保守派」の人であった。検察官出身・裁判官出身弁護士,地元有名企業や地方自治体の代理人を務める人たちである。失礼ながら,日弁連や単位会の委員会活動にはあまり熱心でない人達と言っても良い。
 私たちが提出した決議案に反対し,総会会場において容赦のない質問・意見を述べていたのは,私の属する派閥(左派)の中堅・古参の弁護士であった。「左派」に属しつつ私の意見に賛同した弁護士もいたが,
 1 左派でも反主流派的色彩の濃い人
 2 私より期が下の人
などに限られる。

 この現象からどのような結論が導き出せるか?
 
1 裁判員制度賛成・推進派は,日弁連や単位会の会務を担って来た人達,日弁連会長選挙でいわゆる「執行部派」候補の票を取りまとめていた人達(弁護士経験20年以上の左派)と言って良かろう。「人権! 平和! 戦争反対! 護憲! 民主主義!」という(それ自体私も支持する)スローガンを掲げる「正統的」な人達と言って良かろう。この人たちが日弁連が推進している「いわゆる司法改革」を支えてきたのである。

2 これに対し,裁判員制度反対派は日弁連執行部の動向に無関心・冷淡な人達,で占められている。あるいは,弁護士となってそれほどのキャリアがないため,従来の日弁連の「いわゆる司法改革」方針に無関係でしがらみがない人達である。

 左右のねじれ現象(「革新」とか「人権派」とか呼ばれる人達は,政府の方針に反対することが多いのに,裁判員に関しては,政府に同調しており,「保守」「右派」と呼ばれる人達は政府の方針を追認・推進することが多いのに裁判員に関しては,政府に反発している)はこのような視点からある程度説明できるだろう。

 裁判員裁判法は衆議院では全員一致・参議院でもほぼ全会一致で可決された。つまり,既成左翼政党も裁判員に賛成したのだ。「無謬の党」をもって任ずる人達が「間違い」を認めないのは,確かに首尾一貫した態度ではあると思うが・・・・(失笑)。

 裁判員裁判反対を組織立てて運動しているグループも,ある意味,これと同じような「ねじれ」がある。この「ねじれ」については,岩波「世界」において後藤昭(一橋)が触れているところである。

 ひとつは

裁判員法の廃止を求める会
http://blog.goo.ne.jp/saibaninhaishi
http://blog.goo.ne.jp/jinken110/e/3e8994bf6daead785c95a7f90e6397c8

 メンバーを見れば分かるとおり,代表者は元拓大総長,メンバーは元東京高裁部総括判事,元札幌地検検事正等である。論壇誌でいえば,「諸君」「正論」系統だろう。大久保太郎先生から,手書きのお手紙とパンフレットをいただいた。パンフレットの表紙は明らかに「日の丸」を意識したデザインだった。深読みだが,「裁判員裁判は,国際共産主義団体の陰謀」と考えている節もある。

 井上薫元判事(「蛇足判決が司法を滅ぼす」云々の著者)も消費者系弁護士や民主的弁護士から蛇蝎の如く嫌われていた人だ。
 
 対して,もう一つの反対運動は
裁判員制度はいらない! 大運動
http://no-saiban-in.org/
 一読すれば分かるとおり,全体的には左翼の乗りなのだが,既成の左翼党派では収まりきらない。「日の君不起立」辺りの勢力が多い様子である。私は「大運動」にコミットしているのだが,キリスト教原理主義に分類される。マルクスから言わせるとアヘン中毒者の訳だが,浄土真宗カトリック正平協?),日本基督教団辺りの支持者は多いらしい。まぁ,何でもありだろうか(笑)。

 一般市民を基準としても,「裁判員マンセー」と言っているのは,「市民参加」とか「民主主義」とか「憲法を暮らしに生かそう」とか「意識の高い人達(プロ市民と言うらしい)」が多いように思える。
 
 反面,保守的な人達,自民党支持層の心性はこんな感じだろう。
 「ともかくイヤなものはイヤ」「何でそんな面倒なことをしないといけないんだ?」「司法の民主化? あっしには関わりのねえことでござんす」「仕事優先」「税金たくさん納めてるんだからそれで良いだろ。裁判員で金使うより,道路整備してくれ」
 こういう保守派自民党支持層が案外,裁判員反対らしい。「裁判員候補者名簿から自分の名前を外して欲しい」と地元議員にねじ込んでいるとか(笑)

 既成左翼でも,意見が分かれている様子。
 「青法協は○○系」とよく言われるが,それはさておき,今度の福岡総会では,内田博文を呼ぶらしい。
 日本国民救援会関係のブログは以下のとおり。
http://ikeponnews.exblog.jp/7042757/
http://siinoki-law.sblo.jp/article/13922780.html

http://imadegawa.exblog.jp/7362323/