刑事訴訟法が変わったみたいだ(涙)

刑事訴訟法施行
11月1日から,新刑訴法及び同規則が施行された。
私は,模範六法CDロム版を愛用しているのだが,2004年版しかない。2005年版は,新刑訴対応なのだろうか?
先のエントリにも書いたが,現在私が本拠としている裁判所では,「模擬裁判」の最中であり,新法の目玉である「公判前整理手続」の練習が2日間に渡って行われた。
ともかく,大変な労力が掛かる。

1 ペーパーチェイス
通常の刑事事件では,検察官も弁護人も裁判所も「書面」はほとんど書かない。起訴状・証拠等関係カード・冒陳・論告要旨・弁論要旨・判決書くらいのものだ。
ところが,公判前整理手続になると,法曹三者間で書面が飛び交う。「証明予定事実記載書面」・「求釈明申立」・「証拠開示請求」・「主張追加・変更」・「裁定申請書」・「特別抗告申立書」。
たぶん,提出予定証拠(捜査書類の一部)よりも起訴後に作成されるこれらの書面の方が多くなるのではかろうか? 記録のファイリングも大変だ(どう分類したらよいか分からない)。

2 テンション高い
実際の運用はどうなるか分からないけれども,模擬裁判における「公判前整理手続」は恐ろしくテンションが高い。「検事がこう言ったらああ言おう」というシナリオを綿密に作る(上記した「正式書面」の外にこういった「裏書面」も作らないといけない)。あとは,ひたすら言葉のバトルである。下手をすると敵性証人への反対尋問より緊張する。新法は暗記・理解した上,即座に道具として使いこなせなければならない。
内部情報や信頼関係で得られた情報はここでは書けないけれども,模擬裁判実施中の各地の地方裁判所ではかなり険悪な雰囲気が漂っている。守秘義務違反に渡らない程度で書くけれどもどうも「立会検事役(もちろん本物の正検事)」は検察庁の威信に賭けて勝負している様子である。「弁護人役(もちろん本物の弁護士)」も頑張っているが,別に執行部(会長・副会長)からの指令で動いてるわけではないし,たかが模擬裁で負けたからと言って懲戒されるわけでもない。
地方検察庁は,事前準備手続のため「中核事務官」を任命したのだそうだ(中核派の事務官ではない)。弁護人側も「中核事務員」を任命しようと思っている(お手当は出せないけれど)。

3 リンカーンの尋問
この制度が導入されてしまうと,リンカーン式尋問はできなくなる。あれが決まるとすごくかっこ良いし,裁判員にも大受けするのだがなぁ・・・。弁護人提出予定証拠は,公判前整理手続で証拠請求しないといけないし,「周辺から固める尋問」も出来にくくなるのだ。
私は,反対尋問の腕は,同業者の中でもかなりあると思っているのだが,これからは,そういう伝承芸能みたいなものは廃れていくのだろうなぁ(orz)。


http://www.takaoka.ac.jp/zatsugaku/008/niwa_1.htm


もうグレイソンの有罪は確定的だ。誰もがそう思った。そのときである。若く背の高い弁護士(リンカーン)がやおら立ち上がり、証人をじっと見つめ、反対尋問を始めた。
 
リンカーン − それでは、私の方から質問します。いいですか、ソーヴィンさん。
つまり、あなたは、その直前までロックウッドさんと一緒にいて、それで撃たれるところを見たとおっしゃるのですね?
ソーヴィン − そうです。
リンカーン − あなたは、2人のすぐ近くに立っていたんですね?
ソーヴィン − いいえ、2人からは20フィート(約6メートル)ほど離れていました。
リンカーン − 10フィート(約3メートル)だったんじゃありませんか?
ソーヴィン − いや、20フィートか、あるいはそれ以上離れていました。
リンカーン − 殺人現場は、広々とした野原ですか?
ソーヴィン − いいえ、林のなかです。
リンカーン − 何の木の林ですか?
ソーヴィン − ブナの林です。
リンカーン − 8月なら、ブナの木の葉っぱは、かなり茂っていましたよね?
ソーヴィン − かなり。
リンカーン − ところで、このピストルが殺人に使われたものだと思われるんですね?
ソーヴィン そうです。
リンカーン 被告人が撃つところが見えたというですね。銃身をどんなふうにかまえていたか、なんてことすべてが・・・?
ソーヴィン そうです。
リンカーン 殺人現場は、集会場の近くですか?
ソーヴィン 4分の3マイル(約1.2キロメートル)離れたところです。
リンカーン どこかに、あかりは点いていましたか?
ソーヴィン 集会場の牧師席の脇に点いていました。
リンカーン 4分の3マイル離れたところに?
ソーヴィン そうです! 前に言ったじゃないですか。
リンカーン ところで、あなたは、その現場で、ロックウッドさんか被告人かが、火の点った蝋燭を持っているのを見ませんでしたか?
ソーヴィン いいえ! なんでまた蝋燭の火が要るんですか。
リンカーン では、どうして狙撃のようすが見えたんです?
ソーヴィン 月明かりで、です!
リンカーン 夜の10時だというのに狙撃のようすが見えたというんですね。それも、あかりの点っている場所から4分の3マイル離れたブナの林のなかで見たんですね。ピストルの銃身も見えたんですね。被告人が発射するところも。月明かりだけで、全部見えたんですか?集会場のあかりが点っているところから4分の3マイル離れていて、見えたんですか?
ソーヴィン そうです! 前にも言ったでしょ。

人々は興奮していた。2人の言葉を一言一句聞き漏らすまいと、傍聴席から身を乗り出していたのである。すると、リンカーン上着のポケットから青い表紙の暦を取り出し、おもむろにあるぺージを開き、証拠とするよう求めて、陪審と裁判官にこれを示した。そして、その1ページのある箇所をゆっくりと読み上げた。
リンカーン 8月9日の夜に、月は見られず。翌日午前1時に、月は昇る。
リンカーンは、畳みかけて、力強く言った。
リンカーン ソーヴィンさん! あなた、自分にかかる嫌疑を振り払うために、無関係の人を犯人に仕立てようと、偽証してるんでしょ! 真犯人はあなたですよ。裁判官、この男の逮捕を要求します。

3 収入は?
11月1日以降,公判前整理手続はいわゆる「法定合議事件」で実施される模様である。ところで,法定合議事件というのは,「殺人」とか「放火」とか「強盗強姦致傷」とかいう事件が多く,私選弁護の需要があまりないのである。これだけタイトな手続にお付き合いして,国選弁護報酬が15万円程度だとしたら(未だその辺は分からない),ちょっと困る。
私も,「法定合議事件」はやらないことはないが,「内乱」,「児福・職安」,「銃刀法違反」,「営利目的○○」等の事件なので,私選費用として50−80はもらっている。それくらい貰わないとやっていけません。