in dubio pro reo  Beyond A Reasonable Doubt(模擬裁レジュメ)

あああぁ,ついに裁判員裁判(模擬)が始まってしまう。メディアのカメラも入るとのことで,なんだか気が重い。私の馴染みの依頼人から

「先生が模擬裁判の主任弁護人になるということは,とっくの昔に知っていましたよ。親族が放送局に出入りしていて,掲示板に貼っていたんですって(←そんな話は当該の私自体全然聞いていない。あぁぁぁ。ちゃんとスーツをクリーニングに出して,ネクタイしていかないといけない。弁護士バッチなんて東京地高裁に行く以外付けていないので行方不明になってしまった。どっかのポケットに入っているはずだがなぁ。模擬裁の最中に信用売買した株が乱高下したらどうしよう?手じまいしようかなぁ)とか色々悩んでしまう。)普通の訴訟進行の裁判では弁護人は「冒陳」はやらないのだけれども,裁判員裁判になると,やらなければいけないらしいのだ(しかもパワポを使う)。なんだか,営業マンみたいだよなぁ。やだなぁ。
当職は,団藤重光・平野龍一・立教の田宮先生(アンドロメダの帝王),渥美東洋の刑訴法教科書で勉強した世代なので,付いていけない。「付いていけない」とばかり言っていては「司法改革」のトレンドに乗り遅れるのでしょうがないから,棒珍をやる。このエントリを作成するに当たっては


http://d.hatena.ne.jp/okumuraosaka/
弁護士 奥村 徹(大阪弁護士会

のブログを参照させていただきました(感謝)。


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          冒頭陳述 口頭発言メモ

第1 検察官の冒頭陳述は,先ほど述べられたとおりです。まず,裁判員の皆さんに申し上げておきますが,「冒頭陳述」というのは,
     「検察官が描いた事件のストーリー・主張」
  であり,それ以上のものでも,それ以下のものでもありません。検察官は,「冒頭陳述」で述べたことが「本当のことだ」と証明するために,いろいろな証拠書類や,証人調べを請求していますが,「検察官が描いた事件のストーリー・主張」が「本当のこと」かどうかは,これから始まる証拠調べによって決まるのです。証拠調べを全部行った後で,裁判官・裁判員の皆さんが,真剣に話し合って決めるのです。

第2 これから,私ども弁護人は,検察官の冒頭陳述に対応した「弁護人が描いた事件のストーリー・主張(弁護人の冒頭陳述)」を裁判官・裁判員の皆さんに説明します。検察官の描いたストーリーが本当なのか,それとも弁護人が描いたストーリーが本当なのかは,これから始まる証拠調べによって,裁判官・裁判員の皆さんが判断することです。大変な仕事ですが,どうか真剣な判断をお願いしたく存じます。

第3 「合理的疑い」
 法律家は,「合理的な疑い」とか「合理的な疑いを超えた証明」とか「疑わしきは被告人の利益に」いう言葉を日常業務で使っています。とても分かりにくい言葉ですね。これは,英語の

Beyond A Reasonable Doubt

を直訳した日本語です。司法試験に合格するくらいの法律知識がないと,この言葉の正確な意味は理解できません。英米法の法諺が直訳された言葉は,しばしばアメリカ映画の題名にもなっています。Clear and Present Danger (「明白かつ現在の危険」 日本語映画表題「今そこにある危機」)などです。

 ラテン語

in dubio pro reo(疑わしきは被告人の利益に)
と言うことわざ(法諺)もありますが,これもよく分からない言葉です。

 これらの「業界用語」「普通の日本語」で表現することは,大変困難ですが,「証拠に基づいて、皆さんの常識に照らして有罪であることに少しでも疑問があったら、有罪にはできない。そのような疑問が少しでも残っていたら、無罪にしなければならない」
と言うことです。

 「常識に照らして有罪であることに少しでも疑問があったら」検察官の「負け」・被告人の「勝ち」です。検察官は「常識に照らし,どこからどう見ても疑問の余地がない有罪証明」という,とても高いハードルを超えないといけないのです。
 逆に訴訟当事者のXXXXさん・私ども弁護人の主張が「常識に照らして有罪であることに少しでも疑問がある」と言うことになれば,裁判員の皆さんは,XXXXXさんや私ども弁護人に軍配を上げなければいけません。

第4 さて,事件の概要から説明しましょう・・・・。