国選弁護最後のご奉公

「法テラスとの契約を拒否して国選ができなきなくなったこと」をば,私はこのブログで常々批判しているのだけれど,実は,ある事情のため,約3年近く,国選をやらない時期があった。当地ではこれまで,国選の選任命令はいわゆる一本釣り(裁判所事務官から「センセ国選なんですがこの日,空いてますか」という電話が来る)であった。で,ある裁判官−当時公人だから実名を明かすが榊五十雄(元)判事−が刑事部部総括でその裁判官と激しくやり合った(1審実刑・2審無罪)ころから,ぷっつり国選がこなくなったのだ。
その裁判官は,N地裁部総括から横浜地裁相模原支部刑事係判事−合議部はない−(支部長は同裁判官と同期か1期くらい上)に栄転し,最近依願退官されたらしい。
だから,実を言うと,国選が受けられないからといって当職の業務態勢にそれほど影響はない(私選は相変わらず多く常に3件程度仕掛かり中である。特に外国人and/or否認,かなり変わった日本人)。
同裁判官転勤後,法テラスへの移行のため,国選当番制(この日は国選に当たる可能性があるという日を指定する方式)を試行し,2件国選を受けた。1件は,第1回公判後,余罪捜査のため他県に移監(拘置場所移送)し,期日は追って指定−たぶん,事件自体,移送されるだろう−何のために国選になったのか分からないような事件−担当は結構美人の裁判官だったのに残念だ−。
1件は,保釈を取ってやった差し上げたのだが,いろいろな問題で−守秘義務があり書けない−,保釈金を積まなかったという脱力事例である。
私選ばかりやっていると,国選というのは,勘が鈍ってしまう。依頼者?(被告人)やその家族に「弁護士を使い倒してやろう」という「やる気」が全くないのだ。家族と被告人の希望で保釈許可をとってもぽしゃる−どうしてか知らないけど,国選弁護人標準報酬額より1割程度増額だった。そんなに努力した憶えはないのだが・・・−。「お弁当持ち」のうえ,示談の見込みなど全く立たず,せっかく記録検討をしたのに「移送見込み」,「明らかに無罪」でいろいろな実験やビデオ撮りをやって「無罪証明−変な言葉だけど」しても・・・(以下守秘義務があるので省略)。要するに「笛ふけど踊らず(聖書)」みたいな事件ばかりなんだね。こんな事件ばかりやっていると,刑事弁護士としてのスキルや動物的勘や「やる気」も落ちてしまう可能性がある(もちろん大部分の国選弁護人はまじめにやっている−と思いたい−)。
私選弁護というのは,少なくない金(着手金概ね15万円以上・高いときには100万円程度,報酬は話し合い)を弁護士に払っているから,被疑者・被告人さんや関係者の意気込みが違う。1日3回携帯に電話掛けてきて「嘆願書どうしましょう。保釈決定はまだか? 接見に行ってくれたか? 何時に行ってくれるのか? 差し入れ雑誌はどんなものが良いか? 意見書書いてくれたか? 裁判官面談は? センセ!何もかも失敗じゃないか!! もう期待しないけど頑張ってくれ(準抗告なんてものは,日経225オプション「買い」みたいなもので普通失敗する。現在12月限月で18500円のコール買いをしているが,含み損が40%なんだよゴルア)」とかともかく弁護士を「使い倒してやろう」という気迫にあふれている。こっちも「着手金泥棒」といわれたくないし,お客様は大事だから(無駄かも知れないと思っても)依頼者と喧嘩しながら仲良くまじめにやる。

         国選最後のご奉公
常々,日弁執行部や法テラス関係者と喧嘩しているのだが,そうはいっても,私Barl-Karthは地元単位会の刑弁委員会のメンバーである(昔は委員長をやったり,事務局長−というと聞こえはよいがその実態は委員会派遣や当番弁護士の手配師・人夫出し−をやった)。で,8月の委員会で,刑弁委員長(私より期は下。放火の弁護が好きらしく,大変有能で熱心。(「放火って良いよね。人間存在の苦悩とかそういうものが,一瞬のうちにメラメラと燃え立つ感じでしょう。でも被告人は,「その辺でたき火をしただけのつもりなんだけどなぁ」というんですよ。それなりに合理的な弁解だとは思いますけど。ところで,Barlセンセ 三島由紀夫金閣寺って読みました?」などといわれるのだが,当職は<三島作詞・黛作曲の オペラ「金隠し」は見たが,小説は読んでいないし,最近横浜山手−外人墓地近く−の聖公会が焼失してしまったのは残念だよなぁ>と反論した−,そもそも当職は「恐喝・脅迫・詐欺・オーバーステイ」とか「○○法違反」とか「爆取令・蚊取り法違反・内乱罪」とか「業過」などの嫌疑の善良な一般市民からの依頼しか弁護したことがないし,小説はあまり読まないので委員長の質問に答えようがない。
そうしたところ,委員長は,「法テラスと契約しないのは極めて遺憾だが,それなら最後のご奉公としてこの国選を引き受けてくれ」と言われた。私選打診があった某弁護士がこれを断り,別の弁護士さんが国選に選任されたけれども,事実上辞任(裁判所解任)したという難事件である。この間,接見に行ったら,被告人さんは「実体的真実−タートザッヘ ヴァールハイト等とドイツ語らしい言葉を使っていた−」とか「アメリカの陪審制度」とか「書面裁判主義の弊害」を当職に講釈してくれた。かなりの学識がある上,良く分からないけれども「反権力的」傾向があって,私と意気投合した。被告人さんの講釈は,結構おもしろい話であった。当職は「○○さんの言うことは良く分かりますよ。最近法テラスというロクでもない制度ができて・・・,裁判員なんてホントやってられないっすよ。○○さん裁判員の裁判なんて受けたいと思いますか? ギャハハそうでしょ! ○○さん「火あぶりの刑」になったりして,ふへへへ。その辺は次の接見でお話するとしてですね,この事件の処理の仕方はこうしてああしてこうすると,まぁ私の予想では,ああなってそうなってこうなりますよ。○○さん」と約2時間くらい丁寧に説明したら「分かりました。センセに一切お任せします」と被告人さんから言われた。「『一切お任せします』では困るのですよ。『依頼者』は○○さんなんですからね。」と言ったら,「分かりました。こうしてああして,それで,こういう結果にしてください」というので当該弁護方針を了承してもらった。
こないだ,当該被告人から「ギャンブルだか株式必勝法の研究をしているので数理哲学の本を○○」という連絡があった。当職事務所の蔵書を点検したらウィットゲンシュタイン論理哲学論考岩波文庫刊)があった−通読断念−ので,送ってあげようと思う。クワインやレモンの論理学教科書−通読断念−や聖トマスの自然法の本−一応読んだ−はあったが,さすがにラッセル・ゲーテルの本(日本語訳はあるのか?)はないので,これで我慢してもらいたいと思う。

我々と同期・先輩格の弁護士は「活きの良い放火はないか?,変わった被告人さんはいないか?」と「事件漁り(弁護士会に起訴状が置いてある←事件持ち帰り方式)」をしていたらしい。
某大都市単位会では,「簡単な国選<一回結審はないか>,普通の被告人はいないか」と事件漁りをするため,弁護士会の前で行列を作る弁護士がいるらしい。「行列のできる法律相談所」は聴いたことがある。しかし,「行列を作る弁護士」・「弁護士の行列ができる弁護士会」というのは,寡聞にして知らないけど,本当の話らしい。