アントニ庵姉妹へのレスポンス(主知主義・主意主義)

 篤実なカトリック信徒アントニ庵姉妹(在世フランシスカンだから,一応主意主義だろう。裁判所前にある高崎カトリック教会のコニタン神父様も同様のはず)に謹んでレスポンスします。

 プロテスタントにおける主知主義主意主義の状況は,結構複雑でしょう。いわゆる古プロテスタントルター派カルヴァン派)は主意主義といって差し支えないでしょう。確かルターはフランシスコ会修道院出身だったはず。しかし,ルターという男は,余り学者タイプではなく(どちらかというと扇動家・実践家)主知主義主意主義については,一貫していない面はあります。しかし,晩年の論文では,「理性主義・主知主義」にかなり批判的だったと思います。
 カルヴァンは,法律家であると同時にきっちりとした神学者なのでほぼ首尾一貫して「主意主義」です。しかし,私淑する富井健先生によれば,カルヴァンキリスト教綱要において,不用意にも自然法の有用性を一部認めているらしいです(未見)。古プロテスタント(と分類される)アングリカン(聖公会)はよく知らない。まぁ,聖公会は良い意味で,「良い加減(いいかげん)・分別を弁えた大人」なので,多分煮え切らない。

 バプテストの一部(アルミニウス主義を基本としており「ゼネラルバプテスト」と分類される。これと対立する教派は,「パティキュラーバプテスト」と呼ばれ,神学的にはカルヴィニズム),メソジスト,ホーリネス,いわゆる福音派アルミニウス主義ペンテコステ・カリスマ派はほぼ主知主義と言ってよいと思います(この辺は,八木谷涼子さんが詳しいかも知れない)。
 私自身,古典的ペンテコステ派でカテキズム教育を受け,洗礼も受けましたが,「神の存在証明」に関するカテキズムはゴリゴリのトマス主義でした。事務所の蔵書に「インマヌエル教理ハンドブック」があります(教理書としては比較的ちゃんとしたものです)。この教派は,アルミニウスメソジスト派と分類して良いでしょう。目次を見ると,第1章が「聖書の逐語霊感」,第2章が「神の存在(証明)」です。そして,第2章は,はっきり言って,ほぼ,聖トマスそのままです。曰く「宇宙論的証明」「目的論的論証」「人間学的論証」「実態論的論証」「道徳的論証」,反面,かの有名な「オッカム聖アンセルムスによる存在論的論証」は全く触れられていません(まぁ,ゲーテルは述語論理学でこれを論証しているようだけど,結構胡散臭いし難しすぎるし,カントから「存在は属性ではない」と批判されていたし)。無神論哲学者バートランド・ラッセルは,グスタフ・クラークという大学教授(たぶん聖公会)と論争し,「トマス的証明」が主題となっていました。

 私が許せないと思っているのは,上記した主知主義プロテスタントの教理書に「これから述べる神の存在証明はトマス・アクィナスに依拠したものである」と一言も書いてないことです。これらの教派は,かなり剥き出しでローマ・カトリックと敵対しているのに,カトリックのスタンダード聖トマスに依拠し,しかもそのことを信徒に隠していると言って良いのです。こういうのを「いいとこ取り」・「欺瞞」というのです。私は,洗礼を受ける前この欺瞞に気づき牧師に質問しました。「これってローマ教会のトマスの言っていることじゃないですか」と。そうしたら,「ローマ教会もいいことを言っている場合がある」という返答でした。「ローマ教会の信徒が救われるかどうかは疑問がある」と言っているクセして・・・。私が基本的にバルト主義者(主意主義,非理性主義,自然神学・自然法排斥)であるのは,そういう「恨み・つらみ」があってのことです。

 だいたい,いわゆる福音派に代表されるプロテスタント諸派は牧師も信徒も神学や哲学を勉強しない人が多い(最近の穏健な福音派やホーリネス等は例外)。ニカイア・コンスタンティノポリス信条も暗記していない(可能ならば,ギリシア語・ラテン語で暗記してほしいが,少なくとも日本語で暗記すべきであろう)。使徒信条さえ暗記していない連中も多い。だから,自分が信じている信仰の神学的・哲学的・教理史根拠を反省していない。)「神学的なことがら」に論及すると,「あいつは高ぶっている」と陰口をたたかれる。

 ついでに言っておきますが,古プロテスタンティズムは「聖伝」を批判的な視点を持ちながらも,これを重視しています(特に宗教改革以前に確立した聖伝)。そもそも「古代信条(使徒・原ニカイア←アナテマ条項あり・ニカイアコンスタンティノポリス・カルケドン・アタナシウス)は聖伝以外の何者でもないのですから。<「聖書と聖伝とに矛盾がない場合,聖伝は尊重する。しかし,「聖書」と「聖伝」が矛盾する場合は,聖伝を排斥する。−例えば聖母無原罪・聖母の被昇天・教皇の正式発言の無謬性>というのが古プロテスタントの考え方です。ルター派教会は,<「クレド,ニカイア・コンスタンティノポリス信条」を参照しながら聖書を読むこと>というのを基本にしているのです。
 その他,言いたいことは沢山あるのですが,時間があれば,論考をつづけます。

 ともかく,ブッシュ・ライスのようなアメリカンファンダメンタリズムの連中は腹を切って死ぬべきであり,地獄に投げ込まれるべきです。