日弁連会長選挙争点(裁判員)

 同業者はご承知だろうが,日弁連会長選挙が終盤戦を迎え,両陣営から夥しいハガキ・FAXが送られてきている。
 宮崎誠候補(主流派)から「創る会政策ニュース 第7回」と題するFAXが送られてきた。突っ込み所満載なのだが(既に2ちゃんねるで突っ込まれている),中でも「裁判員裁判推進」の記事は,秀逸(もちろん反語)である。

 FAXに曰く
 しかし,内閣府のアンケートでも3分の2の市民が参加を受け入れています。 そのアンケートは,とっくの昔に[ボ]で取り上げられている。

http://d.hatena.ne.jp/okaguchik/20070208/p1
■[司法]内閣府のこないだの裁判員アンケート こういうことですか。pdf
http://www8.cao.go.jp/survey/tokubetu/h18/h18-saiban.pdf

前回のアンケートと質問を微妙に変えたんですね。
前回は,こういう選択肢でした。
1参加したい
2参加してもよい
3あまり参加したくない
4参加したくない
5わからない
このうち,参加肯定派は,1と2で,25%しかいないという結果でした。

これが,今回は,こうなりました。
1参加したい
2参加してもよい
3あまり参加したくないが義務であるならば参加せざるを得ない
4義務であっても参加したくない
5わからない

参加肯定派を,前回同様,1と2だとすると,20%となり,前回より5%もダウンしているのですが,
1から3までを,参加肯定派とすることで,肯定派が65%になったというわけです。

FAXはつづける。
 裁判員裁判を否定すれば「調書裁判」「人質司法」「官僚司法」に戻るだけです。
 何が言いたいのか分からない文章で,論理分析で2−3分頭を使ってしまった。
裁判員裁判を否定すれば「調書裁判」「人質司法」「官僚司法」に戻るだけです。
 「調書裁判」「人質司法」「官僚司法」に戻らないようにするためには,裁判員裁判を肯定するべきだ(対偶)。
 裁判員裁判を肯定すれば「調書裁判」「人質司法」「官僚司法」が打破される(裏)。
 「調書裁判」「人質司法」「官僚司法」に戻るのは裁判員裁判を否定した場合である(逆)。
 馬鹿は風邪をひかない。

風邪をひく人は馬鹿ではない。
風邪をひき,かつ,馬鹿である人は一人もいない。
馬鹿であり,かつ,風邪をひく人は一人もいない。
すべての人は,風邪をひくか馬鹿であるかのいずれかである。


頭の良い人は風邪をひく。
風邪をひかない人は馬鹿である。


風邪をひかない人は馬鹿である。
頭の良い人は風邪をひく。


 色々考えたら,この命題は,いくつかの意味で虚偽であるか,詭弁(論理法則の無視あるいはそれの悪用)であるかである。


1 裁判員裁判を否定しても,「調書裁判」「人質司法」「官僚司法」の是正の方策はいくらでもある。「調書は甲も乙も不同意」を会を挙げてやる。「全件保釈請求・準抗告・抗告」も同様。「官僚司法」について,日弁連はずっと前から「法曹一元」をスローガンとしている。
 これらを考えると,「裁判員裁判を否定すれば「調書裁判」「人質司法」「官僚司法」に戻るだけです。」というのは,虚偽(デマ)であると言って良い。

2 この命題は,「裁判員制度を導入すれば,「調書裁判」「人質司法」「官僚司法」が是正される」という誤解を与える命題である(両命題は同値ではない)。仮に宮崎氏がそのような命題を主張したいというのならば,「逆は真なり」というような論理法則を無視する詭弁という他ない。しかも,この命題は虚偽である。
 言うまでもないことだが,裁判員制度を導入しても,それだけで「調書裁判」「人質司法」「官僚司法」が是正されるものではない。当たり前すぎて,解説の必要すらない。
 あぁ,そうか「逆は真ならず」ということは,宮崎誠氏も分かっているのか。さすがに逃げ道を残しているわけだ(笑)。だとすると,宮崎氏は巧妙な詭弁家だろう。さすがに論理法則を良く分かっていらっしゃる(笑)。

3 当会では「全面的可視化なくして裁判員制度なし」という総会決議を挙げようとしている。宮崎氏も「「調書裁判」「人質司法」「官僚司法」が是正されなければ,裁判員を導入すべきでない」と言ってくれれば−その是非はともかく−少しは,聞く耳を持つ者もでてこよう。しかし,「実現不可能な条件を付ければ裁判員制度は実施できない」ことから,そういうことは言わず,<裁判員裁判を否定すれば「調書裁判」「人質司法」「官僚司法」に戻るだけです。>と言う虚偽であるか,無意味で詭弁的なスローガンもどきで誤魔化そうとしているのだろう。

4 宮崎氏のFAXはつづける。
 現場の戦いだけでは悪化するばかりだった刑事裁判を「めざす会(筆者注 対立候補高山陣営のこと)」は「現場の戦いだけで変えられる」と叫んでいます。
 現場の戦いだけで,「調書裁判」「人質司法」「官僚司法」が打破できるなど,高山氏がいつ言ったのだろう。現場で戦い,日弁連も戦う(運動論は上記のとおり)ことによって,刑事司法は少しはましになる。そのために,私は闘っているのだ。
 宮崎氏は,現場で戦うどころか,現場の声さえ知らない。刑事裁判を多く手がける有能な弁護士ほど,裁判員裁判に否定的だ。刑事裁判の被告人を経験した人達も同様である。検察官・裁判官だって,現場の人間であるほど否定的だ。そんなことも知らないで,−しかもデマを流し,論理法則を知らない,あるいは論理法則を悪用して逃げ道を作るような人−日弁連会長になろうというのだから,ちゃんちゃらおかしい。