裁判員国会審議過程

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平成十六年五月十七日提出
質問第九九号


裁判員制度に関する質問主意書

提出者  若井康彦

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裁判員制度に関する質問主意書



 「裁判員制度」を導入するための「裁判員の参加する刑事裁判に関する法律」が、今国会で成立する見通しだ。同制度は司法改革の柱のひとつであり、国民の参加により「開かれた司法」を目指すものと理解している。しかし、「法務大臣が同法施行前の改正に言及し法案の不備を認めた」(平成十六年五月十二日付け読売新聞朝刊)と報道されるなど、問題点も指摘されている。五年間の周知期間を設けているとは言え、重い義務を課せられる一般国民に対し、どの程度同制度を理解させたのか、国民的な十分な論議がされたのか、また裁判員の辞退理由の具体的な基準なども明らかにされぬまま制度の導入のみが先行しているのではないか、との危惧もある。
 そこで、以下のとおり質問する。

一 政府は、同法成立後、同法の問題点が明らかになった場合、また、裁判員選任辞退の要件や罰則などについて国民からの強い改正要望があった場合、同法施行前でも法改正をする考えはあるか。
二 国民に重い義務を課す同法案について、政府は提出前にどのような形で国民から意見を募り、周知を図ったのか。また国民的な論議をどのような形で行ったのか。これにより、国民は同法の趣旨を十分に理解したと考えているのか、論議は十分に尽くしたと考えているのか政府の考えを明らかにされたい。
三 各種世論調査では、半数前後が裁判員制度の導入に肯定的であるものの、八十四・二%が「自分は裁判員にはなりたくない」(平成十六年二月、フジテレビ調査)と回答するなど、自らが裁判員になる事に否定的な声が強いと理解している。政府の見解と、対応を伺いたい。
四 裁判員制度の中で、一般国民に特に関わりと関心が持たれると思われる「辞退理由」については、同法案第十六条でその骨子は示されている。具体的な事例については今後の政令で定められると理解しているが、国民の理解を得るためにも早急にその基準を明らかにすべきと考えるが政府の見解と方針を示されたい。
五 「辞退理由」について、憲法で認められた「思想信条の自由」や、「良心的拒否」、「宗教上の理由による拒否」などはどの範囲まで認められるのか。
六 同法案第十六条第七号ハについて、例えば、零細企業経営者などに対し、どのような場合、辞退が認められるのか。「著しい損害」とは具体的にいくらのことか。
七 同「ハ」について、例えば、テレビ番組「行列のできる法律相談所」のレギュラー司会者である島田紳助氏が裁判員に選ばれた場合、仕事を理由に辞退できるのか。同様に、同番組準レギュラーの石田純一氏の場合は辞退できるのか。また、プロ野球選手の場合、レギュラーの選手と控えの選手の場合、どうなるのか。さらに、アマチュアであるオリンピック選手がオリンピック期間中や、その直前に選任された場合辞退できるか。同様に、国体の出場選手などどのレベルまで辞退が認められるのか、基準を示されたい。
八 同法案第十六条第七号ニでは「父母の葬式」を例示しているが、他に何親等までの親族の葬式が対象となるのか。親族以外の葬式への出席はどのような場合認められるのか。また、「結婚式」の場合、友人の結婚式など、どの範囲まで辞退が認められるのか、考え方と明確な基準を示されたい。
九 裁判員制度では「死刑」を含む刑事裁判を対象としている。「死刑判決」の言い渡しについては、高度な専門職業人である裁判官でさえ、精神的な重圧を受けると聞いている。一般国民に対し、場合によっては「死刑」の評議・評決を強いる事に対し、政府はどのように考えているか。
十 また、その対価として支払われる裁判員への報酬は「検察審査員」などを参考にしていると伺っているが、同じ立場で判断を下しながら、憲法上その身分と、高い報酬が保障されている裁判官とのバランスをどのように考えているのか政府の見解を伺いたい。
十一 補充員については、裁判員同様、公判審理に出席する義務を負いながら、裁判員に繰り上げられぬ限り、なんら意見を表明する事は出来ないのか。その事について、政府はどのように考えているか。
十二 裁判員が参加する刑事裁判については「公判は連日開廷」が原則とされているが、公判の日数について、平均、最長、どの程度になると想定しているか。長期の公判審理にあたった裁判員すべてが、自らの本業を投げ打って裁判員としての任務に専任できると考えているのか。結果として万が一、本業に著しい損害が発生した場合、または、裁判員としての職務中、あるいは裁判所への往路、復路に「労災」に相当する事故にあった場合の補償等、政府はどのように考えているか示されたい。
十三 「連日開廷」により、本来求められるべき「真実の解明」や、冤罪防止が阻害される可能性はないのか、政府の考え方を示されたい。

 右質問する。

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平成十六年六月十五日受領
答弁第九九号

  内閣衆質一五九第九九号
  平成十六年六月十五日

内閣総理大臣 小泉純一郎

       衆議院議長 河野洋平 殿

衆議院議員若井康彦君提出裁判員制度に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。


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http://www.shugiin.go.jp/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/b159099.htm
衆議院議員若井康彦君提出裁判員制度に関する質問に対する答弁書



一について

 政府としては、裁判員の参加する刑事裁判に関する法律(平成十六年法律第六十三号。以下「本法」という。)に改正を要する点があるとは考えていないが、本法施行の前後を問わず、具体的に法改正を要する事項が明らかになった場合には、適切に対処しなければならないと考えている。

二について

 司法制度改革推進本部においては、パンフレットの頒布、テレビ、ラジオを通じた広報等により裁判員制度の導入について周知を図るとともに、裁判員制度の在り方についての検討状況をインターネット等を通じて公表した上で、有識者からの意見聴取等を行い、また、国民からの意見募集を四回にわたって実施し、これに対して総数で約五千七百通に及ぶ意見が寄せられた。
 このように、政府としては、裁判員制度の導入について国民の理解が得られるよう積極的に広報活動を行うとともに、できる限り国民からの意見を伺うことに努め、これらの意見をも踏まえて本法の立案をしたところである。

三について

 裁判員制度については、これまでも積極的に広報活動等を行ってきたところであり、国民の関心も高まってきているように思われる。しかし、御指摘のとおり、現段階では、裁判員として刑事裁判に進んで参加しようという意識が国民の間に十分浸透しているとは言えないと考えている。そこで、今後、様々な機会を通じて、裁判員制度の意義やその具体的内容について分かりやすく説明するなど、裁判員制度についての国民の理解と関心を深めるとともに、国民の自覚に基づく主体的な参加が行われるようにするための措置を講じていきたいと考えている。

四について

 本法第十六条第七号は、やむを得ない事由があり裁判員の職務を行うことが困難であること等を裁判員の辞退事由としているところ、このやむを得ない事由については、同号イからニまでに典型的な事由を掲げた上で、その他の場合については、その内容をより明確にするため、政令で定めることとしている。この政令については、裁判員はできるだけ幅広い層の国民の中から選任されることが望ましいという要請とともに、裁判員となる国民の負担の公平性やこれを担うことについての国民の意識の在りようをも踏まえて定める必要があり、本法附則第二条第一項の規定による措置の成果をも勘案して、適時適切に定めることとしている。

五について

 本法においては、裁判員となることを法律上の義務としているが、裁判員の職務を行うことが当該個人の思想・良心の自由や信教の自由等の憲法上の権利を侵すこととなるような事態は許されないので、そのような場合が本法第十六条第七号の「政令で定めるやむを得ない事由」に含まれることをこの政令において明らかにすることを考えている。

六について

 いわゆる零細企業経営者であるということだけでは、本法第十六条第七号ハに掲げる事由には該当しない。しかしながら、そのような者の中には、本人自らが処理しなければ当該事業に著しい損害が生じるおそれがある重要な用務がある場合もあると考えられ、そのような場合には、同号ハに掲げる事由に該当し、辞退が認められ得る。
 「著しい損害」とは、一律にいくら以上の額に相当する損害をいうものではなく、これに当たるかどうかは、個別の場合ごとに、生じるおそれのある損害の種類や額、事業の内容や規模等の諸般の事情に照らして裁判所が判断することになる。

七について

 テレビ番組の出演者又はプロ野球選手であるということだけでは、本法第十六条第七号ハに掲げる事由には該当しない。辞退事由に該当するかどうかは、個別の場合ごとに具体的事情に照らして裁判所が判断することになるが、そのような者の中には、本人自らが処理しなければその従事する事業に著しい損害が生じるおそれがある重要な用務がある場合もあると考えられ、そのような場合には、同号ハに掲げる事由に該当し、辞退が認められ得る。
 また、アマチュアスポーツ選手についても、オリンピック選手又は国民体育大会の出場選手であるということだけでは、同号ハに掲げる事由には該当しない。辞退事由に該当するかどうかは、個別の場合ごとに具体的事情に照らして裁判所が判断することになるが、オリンピックへの参加は、一般的には、社会生活上の重要な用務であると考えられ、オリンピック選手について、オリンピック期間やその直前の期間と裁判員等の職務従事予定期間が重なる場合は、同号ニに掲げる事由に該当し、辞退が認められ得る。また、それ以外のアマチュアスポーツ選手についても、競技会への参加が同号ニに規定する社会生活上の重要な用務に当たる場合もあると考えられ、そのような場合には、同号ニに掲げる事由に該当し、辞退が認められ得る。どのような競技会への参加が同号ニに規定する社会生活上重要な用務に当たるかは、個別の場合ごとに、競技会の性質、規模等の諸般の事情を勘案して、裁判所が判断することになる。

八について

 父母以外の葬式や友人の結婚式などへの出席が本法第十六条第七号ニに規定する社会生活上の重要な用務に当たるかどうかは、本人と故人との親等のような形式的な基準によって一律に決せられるものではなく、個別の場合ごとに、本人と故人や結婚の当事者等との関係の親疎等の諸般の事情を勘案して、裁判所が判断することになる。

九について

 国民の感覚を裁判の内容に反映させ、司法に対する国民の理解の増進とその信頼の向上を図るという裁判員制度導入の趣旨にかんがみると、国民の関心が高く、社会的にも影響の大きい事件を対象とするのが適当と考えられ、このような観点から、法定刑の重い事件を対象事件としたものであり、その刑の量定について裁判員が関与することが必要であり、かつ、適当であると考えている。

十について

 裁判官と裁判員とは、その法律上の地位、職務等を異にしており、裁判員の日当について、裁判官の報酬額との均衡を考慮する必要はないものと考えている。

十一について

 本法第六十九条第二項は、構成裁判官の合議により、補充裁判員の意見を聴くことができる旨規定しており、補充裁判員が評議において意見を述べることもあると考えている。

十二について

 裁判員制度の対象事件の公判の日数については、個々の事案ごとに必要となる審理期間は様々であると考えられ、一概に言うことは困難である。裁判員の負担については、これをできる限り軽減するよう、本法及び刑事訴訟法等の一部を改正する法律(平成十六年法律第六十二号)による改正後の刑事訴訟法(昭和二十三年法律第百三十一号)において、裁判員制度の対象事件について、必要的に公判前整理手続を行うものとし、同手続において事件の争点及び証拠を十分に整理した上、できる限り連日開廷すること等により、迅速な裁判の実現を図っている。また、裁判員等の職務従事予定期間において本法第十六条各号の事由があると認められる裁判員候補者については、その申立てにより、辞退が認められる。
 裁判員となったことによって、その従事する事業に著しい損害が発生した場合に、国が当該損害を補償する制度はないが、裁判員は非常勤の裁判所職員であり、裁判所職員臨時措置法(昭和二十六年法律第二百九十九号)により国家公務員災害補償法(昭和二十六年法律第百九十一号)が準用されることから、同法の規定により、裁判員の公務上の災害又は通勤による災害に対する補償は行われることになる。

十三について

 刑事訴訟法等の一部を改正する法律による改正後の刑事訴訟法第二百八十一条の六第一項の規定による連日開廷は、裁判所が公判廷において鮮明な心証を形成することなどを可能にし、真実の解明に資するものと考えている。なお、同項は、できる限り、連日開廷し、継続して審理を行わなければならないと規定しており、連日開廷が適当でない場合にまで、連日開廷を義務付けるものではない。