裁判員問題 これからの予定

なぜ、「新潟発」だったか(裁判員延期決議)
45期 新潟 Barl-Karth
1 副会長時代の思い出
西暦2000年、私は新潟県弁護士会副会長の職にあった。久保井会長が法科大学院・法曹人口3000人の追認を求めた臨時会員総会の開かれた年であった。野次と怒号(後に懲戒問題となる)の総会を終えたのは、午後11時を過ぎており、帰りの新幹線もなく、ホテルに泊まった。同僚副会長と焼き肉を食いながら「これからどうなるんだろうねぇ」「なるようになるさ」と語り合った。
 翌3月の単位会臨時総会で、副会長の退任挨拶をした。
「私が副会長をやらせていただいて一番勉強になったのは、日弁連執行部がいかに非道い連中かと言うことでした。本日限り、当会の副会長を退任しますが、明日から、私は反日弁連執行部運動に邁進する所存でありますから、皆様のご助力をお願いします」
2 なぜ新潟で?
本年2月29日、新潟県弁護士会で「裁判員裁判実施延期決議」が可決された。会員提案賛同者の募集文書(要旨)は、以下のとおり。
 私は、平成4年に弁護士登録以来、多数の刑事事件に携わってきました。特に外国人を依頼者とする私選弁護に熱心に取り組み、全面無罪1件(新潟地裁→東京高裁)、一部無罪1件(富山地裁)、嫌疑不十分不起訴数件等、それなりに成果を上げてきた自負があります。
 外国人の依頼者が口をそろえて言うのは、「日本の刑事司法の野蛮性」です。代用監獄に20日閉じこめられ、弁護士の立会もなく訴追側による強圧的取調を長時間受け、家族とも面会できず、入浴は数日に1回、自白の撤回は許されず、陪審制度はなく死刑は存置したまま、という説明を受けると異口同音に日本の刑事司法の野蛮性を非難します。私見では、来年5月から実施するとされている「裁判員制度」は、野蛮な日本の刑事司法をさらに残忍にし、国民、被疑者・被告人に耐え難い負担を課するものです。その理由は、決議案と提案理由案をお読みいただければお分かりになるかと思います。
 ことに死刑の問題は重大なものです。−幸い私は弁護士なので、死刑弁護に携わることはあっても裁判員として「人を裁くこと」は回避できます−しかし、私の家族や友人知人に「死刑判決だけは絶対にかかわってもらいたくない」という気持ちは動きません。死刑判決に関与するということは、「人を殺すこと」とどれほどの違いがあるのでしょうか?
 少なくとも、「死刑」に関して国民的合意が得られない限り、その一点だけで、裁判員制度は導入すべきではないと思うのです。
 私の見聞するところでは、現場で刑事事件に携わってきた者(弁護人にかぎらず、裁判官、裁判所書記官、検察官、被告人の立場を経験した者)ほど、この制度の問題性を理解し、裁判員反対の立場を採ることが多いように思います。
 私自身、裁判員模擬裁判の弁護人だけでなく、現実の裁判で公判前整理手続・期日間整理手続を体験してきましたが、その体験に基づいて言えば、(整理手続を含め)裁判員裁判制度は、問題だらけであり、これを来年5月までに実施するというのは、暴挙と言うほかありません。制度への賛否を置くとして、私には、裁判員裁判を担っていく自信はありません。
3 総会審議、誰が賛成し、誰が反対したか
(1) 決議賛成者の特性は以下のとおり。
ア 刑事弁護委員会、裁判員委員会のメンバー
イ 模擬裁判経験者
当会ほど、模擬裁判に熱心に取り組んでいるところはないと思う。これまで7回模擬裁判を実施した。弁護人役は、3名程度、これを支えるスタッフは3−4人である。模擬裁判に熱心に取り組むほど、裁判員裁判の不条理さ、恐ろしさを体感する。私も2年以上前主任弁護人役をやったが、音感神経がおかしくなったうえ徹夜で体調を崩し、にいがた東響コーラスの出演オーディションに落ちた。
ウ 50期以降の若手
エ 元検事、元裁判官、企業派・保守派弁護士
検察官、裁判官出身者は、恐らく実務的観点から、裁判員裁判の問題点を考えていたと思う。また、「企業派・保守派」と言われる人達と「若手」は、日弁連執行部と遠い立場にあり、従前の「司法改革翼賛」路線に反感を持っていた面が強い。
(2) 決議案反対者
歴代会長経験者、「人権派」と呼ばれる40期以前の人達が、決議案に反対した。「司法の民主化・冤罪防止・開かれた司法」というスローガンの下、10年以上にわたり、日弁連執行部を支えてきた人達である。
(3) 総括
このような図式(勢力配分)は、当弁護士会だけの現象ではないだろう。従来の「政治的左右」による2分法は崩れたと言って良い。過日の日弁連会長選挙も、かなりの程度この図式で説明できると思う。
2ちゃんねる
「弁護士本音トーク」というスレッドで以下のような書き込みがあった。論評抜きで転載する(言っておくが決して私の投稿ではない)。
 日弁連執行部って戦争末期の大本営みたいだと思うことがある。
 すでに戦局が悪化してどうにもならないと分かっていながら誰も増員を止めろと言わない、いや言えない。体面と過去の言動との整合性ばかり気にしている。 増員反対を言うことがタブーかのような「空気」すら感じられる。
 法曹大増員だけじゃなくて一連の司法改革は全部失敗だったと思ってる弁護士は少なくないだろうが、公の場では決して口にしない。
 司法改革を戦争に喩えるのは乱暴かもしれないが。
 多くの兵士が玉砕して、多くの有望な若者を特攻させて、大和も撃沈されて、沖縄では地上戦で、本土では空襲で多くの人が犠牲になって、原爆落とされるまで誰も終戦を言えなかった大本営、ああ、大日本帝国もこうして崩壊したんだなあと思った。
 将来弁護士自治崩壊なんて結果になっても誰も責任なんて取らないだろうなあ。
 法曹増員に賛成した人たちは間違っても後で「いや自分は本当は増員に反対だったけど派閥のしがらみなどがあって言えなかった」とか言わないでほしい。
5 今後の展望(政治情勢他会の決議)
周知のとおり、社民党共産党が正式に延期声明を発し、民主党も見直しを言明している。日弁連会長は泡を食って「緊急声明」を発し、樋渡新検事総長は、「裁判員制度は民主主義の申し子」と述べる。裁判員対策のため、まだ最高裁判事でもない高裁長官が、いきなり最高裁長官就任する(読売新聞の特ダネ)。他方、福田内閣(当時)は、「裁判員制度は第2の後期高齢者医療制度」と問題視していたらしい。そういう情勢下、国会での議論が期待されたが、金融恐慌のおかげでそれどころじゃない様子だ。
 本年11月28日、約30万人に「名簿記載通知」が発送される。100世帯に1つ高確率である。恐らく、大手マスメディアの翼賛報道の流れもこれで変わる。そして、ちょうどそのころに衆議院解散総選挙となると思われる。
 今後の行動計画は以下のとおり
(1) 11月22日 新潟市内で反対デモ 行進ルートは新潟地検から新潟地裁まで、その後弁護士会館で記者会見
(2) 11月28日 「名簿登載通知」発送に合わせて、抗議声明と記者会見。
まだ、構想の段階だが、11月の「名簿登載通知」を機に集団訴訟をやりたいと考えている。
 原告は、「裁判員候補者名簿被登載者」、被告は「国」、請求の趣旨は「原告は、裁判員候補者として、裁判所に出頭する義務のないことを確認する。」請求原因事実の核心は、「思想良心の自由」である。
 30万人の候補者がいれば、少なくとも300人くらいは、原告になってくれるだろう。
 ともかくやれることはなんでもやり抜く。