情けない検事

 最近の法律家の学力低下・実務能力低下は,聞知しているところであるが,これほどのひどい法律家がいるとは思わなかった。
 もちろん50期後半−60期代の大部分は少なくともコンピタントであり,エクセレントな人も多い。司法修習委員として,これらの期の人を何人か指導してきた実感である。
 ある刑事私選事件でのことである。いろいろな事情があって,いわゆる罪状認否に際しては,黙秘,甲号証(書証)は全部不同意,物の取調は異議なし,乙号証は同意(取調に異議なし,任意性を争わない)という方針でいて,この方針については,数日前に公判立会検事にも伝えておいた。なぜこのような方針を立てたかは,以心伝心で伝わっているはずだと思っていた。
 先ほど当該検事(元検事ではなく,元現役の検事である??謎)と電話で話をしたのだが,60期代では,とんでもなく基礎学力に劣る人がいるのだと実感した。

 以下,会話の要旨。

P 乙号証は,全部同意ということで有り難うございました。
B どういたしまして(任意性で争うネタもないからね 括弧内は独り言 以下同様)
P 黙秘の予定ということですが,黙秘の趣旨は何ですか?
B (はぁ?)「憲法で保障された黙秘権の行使です」
P 黙秘権が憲法で保障されているのはそのとおりですが,趣旨というか黙秘権を行使する理由を教えてもらえませんか? 
B 理由を説明する必要があるんですか!? (切れかかってきた)
P 争点を明示してもらわないと・・・。訴訟の円滑な進行に協力していただければと思いまして・・・。
B (説教口調となる)「手続の円滑な進行には協力している。だから,こうして弁護方針や検察官提出証拠について意見を内示しているではないか? 弁護人は,手続進行で協力する義務はあるが,実体形成過程において被告人・弁護人に協力義務があるなんて話は初めて聞いたね。いいですか,訴訟というのは,法廷という場で対立当事者が厳しく争っていき,実体を形成していくものでしょう。」(あれれ,この検事さんは,エルヴィルクングスハンドルング-与効的-とベヴィルクングスハンドルング-取効的-の区別つもつかないんだ。少しは平野の基礎理論でも嫁! と思った。)

(何で俺が「刑事訴訟法の基礎理論」を検察官に説示しないといけないのだ! 最近の若い者は平野や団藤で基礎理論の勉強をしてないんだろうか? しょうがねーな)  


P 甲号証(書証)は,全部不同意ということですが,どういう趣旨ですか?
B 人証で立証してほしいということです(憲法37条2項の講釈をしようと思ったがやめた)。そういう趣旨ですよ。それ以上説明する義務も必要もないと思いますよ。
P 今後とも不同意の意見なんですか?
B 訴訟というのはダイナミック・動態的なものでしょう(団藤先生読んでないのか?)。被告人と打ち合わせをしながら考えていくことになる。それ以上はいえませんね。

P 公訴事実に対する弁護人の意見の予定は?
B 「被告人が黙秘しているので,弁護人も公訴事実に対する意見は言えない」ということになります。
P 意見を言えないのですか?
B だから「意見は言えない」という意見です。
P 罪状認否で黙秘,弁護人の意見は留保では,手続はストップしてしまうような気がします。
B そんなことはないでしょう(そもそもいわゆる「罪状認否」なるものは,刑訴法に定められていない)(早く済ませたいのなら,実況見分調書を作成した警察官を在廷証人にしておけばよい)。

B こういうことを聞くのは失礼だが,あなたは,公判立会(りっかい)の経験はどれくらいあるのですか? (否認事件や黙秘事件なんてやったことないだろ)
P 答える義務はない。

B 失礼だが何期?
P 60期です。
B (あぁぁ。噂は本当なんだ)
B 大変失礼なことをも聞くけど,刑訴法の教科書は,何を読んだのですか?
P 答える義務はないでしょう。
B 義務があるかどうかの問題じゃなくて,あなたの学力の問題なんですよ。

 「苦情を言いたいから,次席に電話をつないでほしい」といったら「改めてかけ直してほしい」とのことだった。