判決が有罪被告人に与える感銘力について

 本日午前中,私選刑事弁護事件について,判決言い渡し期日に立ち会った。

 この事件は,事実関係を争わず情状のみで勝負する事件であった。
 被告人はいわゆるヤクザ者であり-ヤクザ者とは言っても稼業は瓢湖白山神社等でぽっぽ焼きを売っているに過ぎない−前科前歴も芳しくなく,(保釈はされたが)実刑ギリギリの事案であった。被告人も実刑を覚悟し,愛してやまない娘さん(幼稚園児)の写真を持参し,法廷に臨んだ。しばらく娘に会えなくなるかもしれないと,被告人は考えていたのである。

 保釈された事件について実刑判決が言い渡される場合,刑務官・留置担当警察官が「お迎え」に来るのが通常である(どういう経緯で「実刑判決」を刑務官等が察知するのか-実務修習当時右陪席の人からそっと教えてもらったことがあるが,20年くらい前のことなので,忘れてしまった)。しかし当職が法廷に入ってみると「お迎え」は来ていない。取調を担当したマルボウの刑事さんが傍聴席にいるだけだった。だから,当職は「執行猶予だ。良かった良かった」と思ったが,判決言い渡し前にそのことを被告人に伝えるのもどうかなぁと思い,厳粛な緊張した面持ちで判決に立ち会った。

第343条〔禁錮以上の刑の宣告と保釈等の失効〕


禁錮以上の刑に処する判決の宣告があつたときは、保釈又は勾留の執行停止は、その効力を失う。
「模範六法 2008」(C)2008(株)三省堂

 判決は,「求刑そのまま執行猶予3年」であったので,改めてホッとした。判決を聴きながら,被害者への慰謝措置(商品券○万円の購入,慈善団体への商品券寄付),保釈面談,被告人の奥さんの涙ながらの証言が走馬燈のように浮かんできた。

 しかし,改めて,裁判官が朗読した判決を思い出すと,何とも感銘力がない。というか,内容が何もないのである。

主文 
懲役○年○月,執行猶予○年
認定した事実
起訴状記載のとおり
摘条
相当法条
(判決言い渡し後,執行猶予の説明,控訴権告知)

これだけなんだよね。たったの2分! こういう判決を「玄関開けたら佐藤の誤判ご飯」判決と言うのである

 別に,某裁判長みたいに長々と訓戒をして欲しいとはいわないけれども,せめて3分でも,いや,30秒でも良いから量刑の理由なり訓戒を賜りたいものである。

第221条(判決宣告後の訓戒)
裁判長は、判決の宣告をした後、被告人に対し、その将来について適当な訓戒をすることができる。
「模範六法 2008」(C)2008(株)三省堂

 そのような有り難い説示を糧として「裁判官の温情に決して欺かない」と心に誓いながら,悪いことをしそうになるたびに裁判官の温顔を思い浮かべながら被告人は,今後の更生生活を送っていくのだが・・・。



 閉廷後,取調担当の刑事さんは,被告人に「もう軽はずみなことをするな。酒を控えて健康に注意してくれ。何かあったら,俺に相談しろ。先生もご苦労様でした,今後もよろしく」と述べていた。この刑事さんの言葉の方が,裁判官の事務的な判決より,よほど重みがあった。

 どういったらいいだろう。刑事裁判官諸氏は,裁判員裁判ばかりに力を入れて,裁判員非対象事件(特に「その辺に転がっている情状事件」で手抜きをしているのではないだろうか?
 (大久保太郎先生−元東京高裁部総括−から「最近の弁護士・裁判官への憂い」を記載した直筆の私信をいただいた。後日このブログで紹介する)