裁判員裁判における「余罪と量刑」(意見書)

強制わいせつ致傷
被告人 XXXXXXXXXX
2010年5月18日
新潟地方裁判所 刑事部 御中
(参考送付 新潟地方検察庁 担当検察官殿)
証拠意見書
弁護人 弁護士 高(郄)島 章

1 乙2号証(平成21年9月11日付け 被告人による検察官面前調書)について,弁護人は,既に取調に異議あり(不同意)の意見を述べたが,その理由を若干補充する。
2 乙2号証は,8頁にわたる調書である。その内容は,本件とは別の強制わいせつ,住居侵入,窃盗等の事件について被告人の供述が記載されたものであり,
(1) XXXXXXXXXXXXX
(中略)
(5) XXXXXXXXXXXXX
等が詳細に記載されている。
3 既に述べたとおり,最高裁の「余罪と量刑」に関する判例は,「余罪が他の刑事手続で審判される見込みが薄い」ときに妥当するものであり,本件のように他の公判手続で審判されている場合には,妥当しないものである。
判例最判昭41・7・13)も
 さらにその余罪が後日起訴されないという保障は法律上ないのであるから、若しその余罪について起訴され有罪の判決を受けた場合は、既に量刑上責任を問われた事実について再び刑事上の責任を問われることになり、憲法三九条にも反することになるからである。 と説示しているのであって,本件のような場合に,この判例の適用がないことは明らかである。

裁判員裁判における余罪の主張立証には,固有の問題がある。
 前記判例は,
実質上これ(余罪)を処罰する趣旨で量刑の資料に考慮し、これがため被告人を重く処罰することは許されない
としながら
その量刑のための一情状として、いわゆる余罪をも考慮することは、必ずしも禁ぜられるところではない
としている。
 果たして「余罪処罰の趣旨」の重い処罰と「量刑の一情状」として余罪を考慮することにどれほどの違いがあるのか,また両者の区別が現実的に可能なのか,という批判があることは周知の事実である(平野外)。
 従来の職業裁判官による裁判であれば,両者を区別して<「量刑の一情状」として余罪を考慮すること>はかろうじて可能かもしれない(そんなもの畢竟フィクションなんだが)。しかし,裁判員裁判において,両者を峻別し<「量刑の一情状」として余罪を考慮すること>は不可能を強いるに等しい。その上,本件において,余罪は別の公判廷で審判されているという困難な事情があり,ますます,裁判員による的確な判断は不可能という他ない。
5 以上の理由から,検察官請求の乙2号証については,証拠採用されるべきでない。