俺はアンドロメダの帝王だ!
(前のは,大幅な勘違いがあったので補訂)
伴事的破門法違反
被 告 人 カール・ラーナー
意見書
(証拠排除の申立補充)
200X年X月XX日
マドリード宗教裁判所 合議係 御中
主任弁護人 ハンス・ゼルケン
副主任弁護人 Barl-Karth
弁護人 エミール・ブルンナー
証人ラッツィンガーの供述については,口頭及び書面にて,証拠排除申立をなしたものであるが,この意見書をもって,若干,意見を補充する。
記
第1 刑事訴訟法・同規則の規定
1 伝聞供述について
伝聞供述の証拠能力について,刑事訴訟法は,以下のとおり定めている。
法第324条〔伝聞供述の証拠能力〕
2 被告人以外の者の公判準備又は公判期日における供述で被告人以外の者の供述をその内容とするものについては、第三百二十一条第一項第三号〔被告人以外の者の供述書面の証拠能力〕の規定を準用する。
法第321条〔被告人以外の者の供述書面の証拠能力〕
三 前二号に掲げる書面以外の書面については、供述者が死亡、精神若しくは身体の故障、所在不明又は国外にいるため公判準備又は公判期日において供述することができず、且つ、その供述が犯罪事実の存否の証明に欠くことができないものであるとき。但し、その供述が特に信用すべき情況の下にされたものであるときに限る。
2 伝聞供述が証人からなされてしまった場合の措置
これについては,以下のとおりの規則がある。
規則第205条の6(異議申立が理由のある場合の決定・法第三百九条)
2 取り調べた証拠が証拠とすることができないものであることを理由とする異議の申立を理由があると認めるときは、その証拠の全部又は一部を排除する決定をしなければならない。
第2 本件証言は,典型的な伝聞証言に該当する
1 いわゆる「伝聞もどき」について
証人の証言中ある発話者の「発話行為自体(そして,これから立証される発話者の「狂気」・「語学能力」・「憎悪の念」等)を立証趣旨とするのであれば,(判例上有名な事例としては「あの人は好かんわ、嫌らしいことばかりする」,「白鳥はもう殺してもいいやつだ」,教科書上の著名な作例としては,故田宮裕教授の「おれはアンドロメダの帝王だ」,書研「刑訴講義案」の「おれはアフリカの皇帝だ」等々),そのような証言は,「伝聞もどき」とも表されるべきものであり,伝聞証言には該当しない。
2 本件は,伝聞証言である
一般的に,検察官は,弁護人からの「伝聞供述である旨の異議(排除申し立て)」に対する常套句的反論として,「証人がXから○○と聞いたと言うこと自体が立証趣旨であり,○○が真実であることは立証趣旨でない」などといった釈明をするが多い。本件も同様である。すなわち,裁判長からの求意見に対し,
(前略)そもそもその発言自体を問題にしているわけでありまして,
と述べているものである(もっとも,「発言内容の真実性の問題であります」と矛盾したことを述べているが,速記の誤りであろうか?)
3 本件は「伝聞もどき」ではない。
副主任からの求釈明に対して,検察官は,要旨「発話行為から自然に推認されるものは当然立証の対象である。」と述べている。
しかし,副主任弁護人が指摘したとおり,−少なくとも本件においては−「発話内容の真実性」を前提としなければ,「発話行為からの自然な推認」などは,できない道理である。(それとも,検察官は発話行為からの自然の推認として,「原供述者カール・バルトはドイツ語が話せる」とか「バルトは金色という色を識別でき色覚異常ではない」などということを立証したいのだろうか?)
結局,検察官の立証趣旨は,
(1) 金色のカリスの中身は、「例のブツ」であること
(2) 同カリスの中身は、「向こうが知ってい」ること
の2点にあると理解せざるを得ず,結局典型的な,伝聞供述に該当するものである。
4 法321条3号について
原供述者たるカール・バルトは,国外(スイス連邦)にいることは事実であるが,同条の要件である「供述不能」には該当しない。バルトは都合を付けてマドリードに赴き,御庁で証言することが可能である(この点,弁護人らは,バルトといつでも連絡できる体制にあるし,本年夏に,弁護人らがスイスに赴いて,事情を聞いてくる予定である)。
また,原発言が同条の定める「特信状況」を充足するか否かも疑問である。
第3 その他
本件は,ラテン語通訳人の通訳を経てなされた証言であり(しかも原供述はドイツ語で行われている),厳密には,再伝聞に該当する。もとより,通訳人の通訳は正確なものであると思料されるので,この意味で,「再伝聞性」はないものと考えられるが,しかし,「例のブツ」というラテン語が,どのようなニュアンスを持つのか等の問題があり(例えば「秘密のお届け物」程度を意味するのか「ヤバイもの」というニュアンスを持つのか等),この点からも,原供述の真実性・翻訳が必然的に有するコミュニケーションギャップの点は,慎重に吟味されなければならず,この点からも,原供述者に対する証人尋問は不可欠である。
以上