「ジェイコム問題で訴訟を起こせるか」に関する一考察

ジェイコムの法律問題を検討してみました。ただし,私は証券取引法の知識は皆無なので,民商法上の検討しかできません。

1 不始末をしでかした従業員の責任
恐らく数千億円の債務不履行責任(従業員としての善管注意義務違反)が問われるでしょう。しかし,貼用印紙代と弁護士費用の無駄です。「訟廷便覧」の早見表を見てみたのですが,1000億円の印紙額・標準弁護士費用は早見表に書いてありません。

2 不始末をしでかしたみずほ証券及びみずほグループの責任
(1) 株主代表訴訟
みずほ証券は非公開会社のようですが,みずほグループは数社上場しているようです。「株価棒下げ(S安連続???)」の責任は,株主代表訴訟で問われることになるでしょう。その種の問題に強い弁護士はいくらでもいます。印紙額はそれほど掛からないし,トリッパグレはないから,着手金はお手頃価額じゃないかしら? 

(2) このたびの棒下げで損失を被った投資家

みずほ証券の不始末で保有株も棒下げしてしまった」ということで,一般投資家がみずほ証券の責任を追及できるでしょうか?(不法行為?) 恐らく無理でしょう。因果関係の主張・立証が非常に難儀になります。第1回弁論が始まるころには,たぶん含み損は解消されていると思いますね(あるいは,ジェイコム問題以外の原因で含み損が発生したり)。


3 「買い注文をした投資家」

(1) 「注文は出したが,約定しなかった。責任取ってくれ」という訴訟は出来るでしょうか? たぶん無理です。契約(申込と承諾の合致)が成立していませんから債務不履行責任や契約履行責任は問えません。その他,ざーっと考えてみましたが,どんな理論構成をしても無理です。ジェイコムに対する注文はすべからく取り消し,外の株(サンリオとか)に買い注文を出した方がよいでしょう。数秒程度で約定すると思います。少なくとも数週間約定待ちということはないですね。

(2) 「約定した投資家」について

ア 発注した証券会社を訴える。

悩ましい問題ですねぇ(笑)。約定(契約が成立)した以上,買い主はブローカー(取引している証券会社)に対して,「株券引き渡し請求権」を取得します。これに対して,ブローカーは以下の抗弁を主張するであろう。
「確かに契約は成立した。しかし,ジェイコムの発行済み株式総数は,1万4500株に過ぎない。だから,あなた(運良く約定した投資家)に株券を渡そうと思っても渡せないのです(絶対的不能の抗弁)。」
この抗弁は,恐らくとおるであろう。原告(投資家)は「期待権侵害」「原始的不能と分かっていて約定させたのは不法行為」とか主張することになるかも知れない。まぁ,本日のストップ高に3割くらい色を付けて「損失補填」するということで和解するのがよいのじゃないかしら? 僕が代理人だったら,その辺で和解を成立させます。

イ ジェイコムを訴える

ジェイコムを訴えるなど,言語道断です。どう考えても請求原因が成り立ちません。

ウ みずほ証券を訴える

なかなか良い発想ですが,どういう訴状を書けばよいのかというと名案が浮かびません。

4 いろいろな順列組み合わせで,訴訟のネタが思い浮かびますが(「こういう脆弱な発注システムを納品したソフト業者の責任」や,「明らかな誤発注であることが容易に認識できたのに売買を媒介した東証の責任」等々)頭の中が整理し切れていませんので,良いアイデアが浮かんだら,連載します。