準備書面,最後の詰めが甘い(情報コントロール権)

平成17年(ワ) 第XX号 国家賠償請求事件
原 告 T
被 告 国
平成17年9月29日
準備書面

N地方裁判所N支部 御中
原告訴訟代理人 弁護士 O
同 弁護士 Barl-Karth

(情報コントロール権説について)

管見の限り,プライバシーを「自己情報コントロール権」と定義する見解は,佐藤幸治教授の初版教科書がその嚆矢であった。以後,同教授の見解に依拠する学説を発表する憲法学者は枚挙にいとまがなかった。
2 判例も同様である。すなわち下級審においては,いわゆる「niftyBBS8雷鳥事件(パソコン通信上である人の住所・本名・電話番号が暴露されたもの)」でこの見解が採用され,その後いわゆる「オタクカルチャー事件」においても同旨の見解が判例とされた(顕著事実と思料されるが,要すれば,文献を紹介する)。最高裁においても「早稲田大学プライバシー事件最高裁判決 平成15年9月12日 第2小法廷判決 平成14年(受)第1656号 損害賠償等請求事件)において
このようなプライバシーに係る情報は,取扱い方によっては,個人の人格的な権利利益を損なうおそれのあるものであるから,慎重に取り扱われる必要がある。本件講演会の主催者として参加者を募る際に上告人らの本件個人情報を収集した早稲田大学は,上告人らの意思に基づかずにみだりにこれを他者に開示することは許されないというべきであるところ,同大学が本件個人情報を警察に開示することをあらかじめ明示した上で本件講演会参加希望者に本件名簿へ記入させるなどして開示について承諾を求めることは容易であったものと考えられ,それが困難であった特別の事情がうかがわれない本件においては,本件個人情報を開示することについて上告人らの同意を得る手続を執ることなく,上告人らに無断で本件個人情報を警察に開示した同大学の行為は,上告人らが任意に提供したプライバシーに係る情報の適切な管理についての合理的な期待を裏切るものであり,上告人らのプライバシーを侵害するものとして不法行為を構成するというべきである。原判決の説示する本件個人情報の秘匿性の程度,開示による具体的な不利益の不存在,開示の目的の正当性と必要性などの事情は,上記結論を左右するに足りない。 と説示しており,「情報コントロール権説」は最高裁においても採用されていると理解して良いと思われる。
 なお,弁護士等の実務家の間においても1999年ころからこの説を支持している者があった(甲号証参照)。
3 阪本昌成 元教授(広島大学)は,いわゆる古典的プライバシー概念を基本的に支持しているが,これは,表現の自由との兼ね合いから主唱しているものである。氏の見解を要約すると「情報コントロール権説に依拠すると,古典的プライバシーに比しその権利の枠は広くなり,これと比較衡量の対象となる『表現の自由』との間でシュパンヌンクが生じる」というものである。
4 佐藤幸治教授は,基本的に情報コントロール権説に依拠しつつも,教科書を改版後「センシティブ情報」の概念を用いて従前の見解を若干修正している。しかし,これも「表現の自由との兼ね合い」から御説を補訂したに過ぎないものと理解される。
5 本件においては,K検察官事務取扱検察事務官表現の自由と原告におけるプライバシー権との間の調整を考慮すべき場面では全くない。
 したがって,準備書面における被告の主張は,これまでの学説・判例のトレンドを曲解したものと言わざるを得ず,失当である。
 以上の点については,石井一正竹田稔元判事の著書を参考として,更に主張を補充する予定である。