国家賠償対策2 tamago氏の意見に対して

私の国指定代理人に関する書き込みについて,tamago先生からご批判を頂きました。
http://tamago3.blog21.fc2.com/blog-entry-347.html
訟務検事としての実務を経験しないと,このような事情は分からないので,大変参考になりました。
tamago先生の略歴を見ると,少なくとも私より20年以上は先輩格であり,このような方と日を隔てず,不特定多数人の面前で議論ができるというのは,まことに便利で有益なものだと思っています。従前は,判例時報とか,判例タイムズなどという業界雑誌でチマチマとやっていた議論をば,一般国民や行政部を担う官僚等々の皆さんが注視(結構読者は多いと思われる)している中で大ぴらにやれるというのは,「表現(情報流通)の自由」の見地からまことに喜ばしいことだと思います。

現在,私は,3件ほど「事務所の事件」として国賠の原告代理人をやっております(「名義上弁護団」は外に2−3件)。うち1件は,文字どおり「国家賠償」(外は労災,自治体−県警や公立学校−が相手)で,このブログでも多数言及している,新潟地方検察庁長岡支部検察官事務取扱検察事務官による虚偽公文書作成・同行使(電話聴取書)の事案です。現在,新潟地裁長岡支部(最近単独部から合議部に回されました)に係属中です。
事案自体は,きわめて重大なのでしょうが,争点は,単純・明解でそれほど多くありません。しかも,事実認定には,ほとんど争いがありません(被告国は,事務官による虚偽公文書作成・同行使の事実があったことを自白しています)。
本件における論点は,畢竟,2点に集約されます。いずれも,国賠法上の「違法性(法益性)」であり,一つは「適正処罰請求権(犯罪被害者は国家に対して犯人の適正な処罰を求める権利(法益)を有するか,また,被害者は,犯人に対する処罰感情を捜査機関に伝達する権利(法益)を有するか」,一つは「情報コントロール権としてのプライヴァシー権(犯罪被害者が捜査機関に対して言ってもいないこと−しかも自分の処罰感情と正反対のこと−を述べたという捜査記録を捜査機関が作出することは,プライヴァシー権の侵害にならないか」というものです。
tamago先生が事例としてあげられた「薬害・入会権・爆発事故」等においては,確かに,訟務検事以外の各省庁の職員が指定代理人になる必要があるでしょう。この点に関するご論考は,訟務の現場が良く分かり,とても参考になりました。
しかし,上記の事件は,主張・立証に際して事実関係の綿密な調査や関係法令の解釈でさほどの手間がかかる事案とは思えないのです。もちろん,この議論には,憲法理論・刑法の基礎理論(刑罰論,それは必然的に学説史や法哲学,哲学に関する知識が必要になります)・関係する外国法制の知識が不可欠でしょう。しかし,当方は,このような事件を私自身とパートナー(大学教授出身)の弁護士とで手分けをしてこなしています。
対する国指定代理人は−変動はあるものの−現在7人です! 「何でこんな−ショウムナイ(訟務内−笑−)−事件に7人も代理人を付けるんだい?」というのが率直な感想です。
そのうえ,準備書面には7名の記名があるのですが,3名は「代印」です。
実務家でない方のために説明しますと,「代印」というのは,民事訴訟における慣行(?)の一種で,山田(鈴木の印),田中(鈴木の印),岡口(鈴木の印)というようなものです。
私も集団訴訟の経験は結構ありますが,代印で済ましている場合,上記の山田・田中・岡口各代理人は,当該書面の起案への関与が,きわめて薄いことが通例です(場合によっては−無責任ですが−全然目を通していないことさえある)。
まぁ,それはそれでやむを得ない事情もあるのでしょうが,弁論期日に長岡支部(本庁から自動車で1時間余,東京から新幹線で2時間弱)に出向くと,ほぼ毎回,7人全員が出廷しているのですね。つまり,書面起案にほとんど関与していない連中が,わざわざ地裁支部まで出張していると言うことです。私が,連中を並び大名と評している所以はここにあります。それとも,訟務実務における「代印」について,私の理解が間違っているのでしょうか?
しかも,先の書き込みにも書いたとおり,国は弁論期日に一切書面を提出せず,手ぶらで出廷したことがありました。その際にも少なくとも5−6人の指定代理人が出廷(新潟市内や東京都内から)しているのです。これでは,並び大名どころか,「置物」みたいなものです。

繰り返しますが,tamago先生のエントリーは大変参考になり敬服しておりますが,しかし,国指定代理人国税を無益に費消していないかは,私の実務体験から見ると,否定的な面があると考えております。

さらに、大学教授などから準備書面作成などの支援を受けるため、「アドバイザー雇用」「調査研究委託」などの制度も創設したいとしている。(2006年8月27日3時0分 読売新聞)
これは良い面と悪い面とがありますね。水俣二次訴訟では,某国立大学教授からさんざんな目に遭いました。「御用学者」はどこにでもいるものです。しかし,私が今やっている訴訟などは,大学法学部教授と対論してみたいし,「勝ちにこだわる代理人」を制止する役割を果たしてくれるかも知れません。

今回は,上記訴訟の内容面には詳しく触れませんが,国(被告)の主張(犯罪被害者は,捜査機関に対して処罰感情を伝える権利はない!)は実に刮目すべきもので,このような主張を構える国(法務省)が,法テラス(法務省監督)で,「犯罪被害者支援」を宣伝してもちっとも説得力がないと思っています。少なくとも「検察庁職員による犯罪被害」については・・・。