【実習内容2】―法テラス見学

1、今回、当初予定の簡裁傍聴が早く終了したので、平成18年XX月X日から運営されている法テラスX事務所を見学した。以下、見学内容、私見を述べる。
2、(法テラス概要)
法テラスの正式名称は「日本司法支援センター」である。(総合法律支援法(以下法)1条)。法テラスとの愛称は、「法で社会を照らす」「テラスのように安心できる」との思いをこめて名づけられたとのことである。(パンフレット参照)。
法テラスの目的は、国民にとって、法律による総合的な支援に関する事業を迅速かつ適切に行うことである(法14条)。そして、その運営によって、自由かつ公正な社会の形成につとめることによって、司法制度改革の一端を担うものと位置づけられている。
法テラスの業務内容としては、1弁護士事務所(司法書士事務所)の紹介、2民事法律扶助に関する相談業務、3司法過疎対策、4犯罪被害者支援、5国選弁護関連業務行われている。もっとも、相談件数は1、2が多く、現実の業務内容も1、2が中心となっている。
3、(法テラス設備―某地方事務所)
平成18年11月13日現在、法テラスX事務所はX市XXX通ビル2階フロアに開設されており、部屋は相談部屋(主として法律扶助相談に使用)が4〜5部屋、記録保存用の部屋が2部屋、職員のロッカーが1部屋用意されている。また、所長の机があり、最新映像機器が完備してあった。
見学に訪れた際、相談窓口で相談をしている方が1名、個別部屋にて民事法律扶助に関する相談をしている方が1名訪れていた。職員は電話対応(各々担当が決まっている)が4名、事務局長が1名、相談窓口には消費生活アドバイザーの資格を有する職員が1名であった。所長は不在であったが、3名の弁護士先生が当番で訪れるとのことであった。内1人の熱心な先生は、毎日事務所によるとのことであった。
また、パンフレット類が充実していた。1、法テラス監修の「法律問題Q&A」とのハンドブックがあった。1離婚 2DV 3相続 4労働問題 5建物賃貸借と5冊あり、その内容は素朴な質問から、その対処方法等、充実した内容であった。市民団体からの利用の申し出もあるとのことであった。2、法テラスの業務内容パンフレットもあった。1設立に際してのパンフレット2業務内容全般を図解したもの3犯罪被害者支援について4民事法律扶助についてのもので計4種類。3、その他各種パンフレット1XX弁護士会多重債務相談センター2交通事故相談センターのもの3弁護士会の示談あっせんのもの4司法書士会アクセスブック(少額訴訟について)5司法書士会連合会の民事法律扶助制度のパンフレットで計5種類あった。
4、法テラスに関する疑問
(1)国選弁護人契約弁護士制度
従来、刑事被告人(一部被疑者)に対する国選弁護制度が存在したが、法テラス設置後は、「国選弁護人の事務を取り扱うことについて契約をしている弁護士「以下国選弁護人契約弁護士」(法30条1項3号イ)」の中から国選弁護人が指名されることなる。
そして、制度運用としては、1裁判所もしくは裁判官からの求めにより、2法テラスが国選弁護人契約弁護士の候補を指名、通知する。3通知に基づき国選弁護に関する事務が行われる。
この点、123のような国選弁護人の選任方法を経ることにより、国選弁護人契約弁護士でない弁護士は国選弁護業務を行うことができないこととなる。当該契約主体は法テラスであるが、法テラスは独立行政法人に準ずる法人であり、法務省を上部組織とするものである。従って、国選弁護人契約弁護士は、法務省、すなわち政府と契約をすることによって、国選弁護事件を担当することになる。
以上のような制度運営は、第1に、憲法31条、37条に違反するおそれがある。第2に、弁護士自治を侵害するおそれがあり、弁護士職務基本規定3条に抵触するおそれがある。第3に、このような制度にすることによって、依頼人が国家であり、当該弁護活動は被告人に対して行われるところ、利益相反に該当するおそれがある。

これらの諸問題は、契約弁護士以外は国選弁護活動を「しえない」とする制度設計、運営にあることから、このような運営方法には疑問が残る。
(2)広報活動―市民の認知度
平成16年6月に総合法律支援法が公布され、法テラスは平成18年10月2日に開設された。確かに、法律扶助協会を再編し、司法制度改革の一環として法テラスと改名、業務を統合し、こうした窓口を設けることによって、市民が司法を身近に感じるという点が促進される面も少なからずあると思われる。しかし、問題は2点あげられる。第1に、いわゆる「たらい回し」問題。第2に認知度の問題である。
1)法テラスの業務は主として上にあげた1であり、「弁護士紹介」である。この点、利用する市民の側に、法テラスに関する認識が正しくないことがしばしばあると思われる。すなわち、利用する市民としては、「法律相談をしてくれるもの」として訪れている場合が少なくないということである。
法テラスを訪れた場合、窓口の担当員(法律専門職者ではない。消費生活アドバイザー等)に対して相談をし、自分の置かれる現状、紛争を全て相談する。この相談につき相談する側としては「法律相談」と思っているきらいがある。しかし、実際は「弁護士(ないしは司法書士)を紹介するための疎明資料」に過ぎない。この点、相談に訪れた市民の意識としては、「当該相談相手が助けてくれる」と思っている点はないだろうか。そして相談した後に「では弁護士を紹介しますので」といわれ、具体的な相談内容(秘密に関する事項)まで相談している場合は、たとえ守秘義務を負っているといっても、気持ちのよいものではないだろう。
そこで、法テラスは、業務内容としてはあくまで「窓口」であることを強調して広報活動を展開することが肝要かと思われる。
また、電話により法テラスにアクセスした場合は、以上のような「たらい回し」はより顕在化する。まず1コールセンターに電話する。その後2各地の事務所に繋げられる(もしくはかけなおす)3その後、弁護士等を紹介される。
平成18年11月現在、弁護士を紹介されるまでの平均は大体1ヶ月半程度であるとのことである。このような運営方法は、法14条に掲げる「事業を迅速かつ適切に行うこと」という目的に反するものであるはないかと考える。
2)第2に「法テラス」の存在について、未だ国民に徹底しているとは到底思われない(自分の周りに散見されるだけかもしれないが)。上記「たらい回し」問題も、この広報活動の不足による点に起因するものと思われる。
法務省の行う広報活動は、往々にしておとなしいと感じる。裁判員制度は、市民の関心もようやく高まってきたきらいがあるが、それは主として「裁判員に選ばれると面倒だ」との意識の高まりがあるのではないか。これに対し、法テラスは「やっかいなことにならない限り関係ない」との意識があるため、「自由かつ公正な社会の形成(法1条)」を理念として掲げる法テラスとしては、裁判員制度よりも一層広報活動に勤めるべきである。
なお、法テラスにはパンフレットが多数用意されていた。これらが広報活動との名目においてなされているのであれば、「広報」の意義を履き違えていると思われる。確かに法テラスのパンフレット類は充実しているが、それは「法テラス」を訪れなければ手に入りにくいものである。また、反対に、パンフレットの充実さからすれば、駅前等にパンフレットを置きさえすれば、市民は各種相談に自分でいけるのであるから、法テラス事務所の経費は削減できるように思われる。
司法制度改革においては、「開かれた司法」を目指しているのであるから、「法テラスを設置し、パンフレットを充実させる」だけでは未だ不十分なのである。その存在を市民に周知徹底する程度の「広報活動」について考えるべきであると思う。そのための視点としては、ある種「俗世」に降りることも方法論としてはありなのではないかとも考える。(もっとも、「司法」自体が低俗になるべきでないのは言うまでもない)
法テラスの業務についての、さらなる広告活動が「迅速かつ適切な運営」につながり、「社会の自由と公正」に繋がるのである。
(3)感想
今回法テラスの見学をして、弁護士紹介業務、法律扶助制度窓口を主として行うだけであれば、人員、設備ともに現状の半分程度であれば足りるように思われた。また、同じだけの予算をもって運営するのであれば、設備、経費を削減し、法律扶助の要件を緩和するないしは、国選弁護の費用を従来と同じ程度に維持する方面に費やす、ないしは広報活動にまわす方が、司法制度改革の本旨に適う司法運営が可能ではないかと考える。
この点、現状の法テラスが税金を無駄遣いしているともいえるが、これを改善させるための方法としては、現行法では国家賠償によるしかない。なお、一部の市民オンブズマンが提唱する住民訴訟ならぬ「国民訴訟」については、以前行政法の先生に「日本国家でそれが立法されたら革命だ」と言われた。
法テラスの目的である「総合法律支援に関する事業の迅速かつ適切」な運営は、現在の法テラスの制度設計では達成しえないのではないだろうか。さらなる運営方法の改善を期待したい。
以上