徳永信一をどう捉えるか? その外

(昨日配布したレジュメ,口頭による補足は後日アップする)
N県弁護士会 Barl-Karth
1 自己紹介
2 徳永信一や私が受験生だったころの憲法法哲学の状況
私より,4期上(京大卒 佐藤幸治門下)
教科書:宮沢・清宮→小林直樹佐藤幸治
法哲学加藤新平・碧海純一(ケルゼニズム・新カント学派・分析哲学)→メタ的議論から価値基底論へ
3 徳永信一の転向?(小林ヨシノリとの関係)
4 メーリングリストの言説の分析
(1) なるほどよく勉強はしている。
(2) ケルゼン及びケルゼニズム,カール・シュミット
ア ケルゼン
存在と当為との峻別
法は当為であり,存在から基礎付けられない。
理性ではなく意思(プロテスタント的発想)→自然法の排除(ペシミスティックな人間観)・意思を制限するものは何もない。
法の段階構造(静態と動態)→仮設的・思考の前提としての根本規範(憲法制定権者の言うことに従うべし),事例(父親の命令・銀行強盗と執行官の違い)
イ シュミット(後期)
実存的決断としての憲法制定権力
ローマ・カトリック神学 理性主義 自然法思想
存在と当為との分かちがたい融合(トマス主義スコラ哲学?)
http://d.hatena.ne.jp/shinichiroinaba/20061006/p3
 というのも、シュミットの「憲法制定権力」は、全能の秩序創造者であるわけですから、どのようにでも秩序を作りうる、したがって「ただそれを承認し保障するだけ」しかできないような、憲法制定権力に対抗可能な権利などというものは存在しないことになります。
 「そうはいっても、『憲法理論』を読むと、そこかしこに、『前国家的権利』だとか『自然権的権利』だとか書いてあるではないか」とお考えになるかもしれませんが、よく見てみると、“基本権は前国家的・自然権的権利「である」”とは書いておらず、“前国家的・自然権的権利「として」保障されている権利である”といった表現が使用されています。つまり、基本権は憲法制定権力もタッチできない不可侵の権利であるわけではまったくない、しかしながらワイマール憲法制定権力は、基本権があたかも前国家的・自然権的権利である「かのやうに」←遂に出たぁハンス・ファイヒンガーの『Die Philosophie des Als Ob』保障することを決断したのである、というわけです。

ウ 宮沢・清宮への評価(自然法思想の混入)
エ マルクス主義憲法
(3) 徳永の総括的評価
 学識と思想との乖離・度し難い学問的韜晦
憲法改正無限界→9条2項削除という飛躍
憲法改正の限界と安倍晋三の言説
(1) 安倍は「憲法改正論者でない」。「新憲法制定(新しい憲法を書き上げる)」であり,「革命家」である。
(2) 安倍晋三日本国憲法の正当性を排斥している
→正当性のない日本国憲法(改正規定)を根拠として改正憲法の正当性は基礎付けられない。そこまで考えて,「新憲法制定」と言っているのか?
(3) 日本国憲法生誕の法理(宮沢)
憲法としての日本国憲法憲法制定権力の変更),帝国憲法改正という形式(男爵の署名まである!)→8月革命
(4) 安倍晋三統一協会美しい国
http://sensouhantai.blog25.fc2.com/blog-entry-170.html
憲法改正阻止(運動論)と憲法改正限界論
(1) 憲法改正限界論に関する私の考え方(どうでも良いのだけど)
 原理主義的(憲)法実証主義(聖書的原理主義とパラレル),自然法自然権)的思考による改正限界論は採らない。
 憲法に明示的黙示的に「改正禁止」条項があるもの(「侵すことのできない永久の権利」・「永久にこれを放棄」),実証主義的思考でも改正が論理的に導き出せるもの(憲法改正規定・主権の変動)は改正の限界。
(2) 「改正限界論」に惑わされないために
ア 徳永の論法
改正の限界内にある→改正すべし。
 俺はお前らと違って頭が良いんだぞ→俺の言うことを聴け!
 「平和主義(改正の限界)」から戦力不保持が必然的に導き出せるかは,確かに議論の余地がある。
イ 「悪法は法である。しかし,余りにひどいから従えない」(ラートブルッフ)→「なるほど改正の限界内かも知れない。しかし,余りにひどいから従えない。」
 事実(それが法であるか・法として有効か)から価値(良い・悪い)は導き出せない。これが法実証主義の強み。
7 (附論)国民投票法案について
(1) 「対案路線(内容が悪い)」の失敗
(2) 国民投票法案は中立的か? 弁護士会は「改憲」について中立であるべきか?
(3) 改正手続法の前に「改正草案を出せ」と言う議論も可能(こんな改正をやるための準備ならダメ)。
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改憲│ 投票法 │ │
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│ ○ │ ○ │ ○ (安倍) │
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│ ○ │ × │ × (ない) │
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│ × │ ○ │ ○ (分かりにくいがあり)│
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│ × │ × │ ○ (分かりやすい) │
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