「犯罪被害者と刑事手続」 3 変な法律案
法律というのはこれを正確に読解することは難しい。括弧を読み飛ばして読んでみると,とりあえず意味が分かる。
さて,現在参議院審議中の法案は,以下のとおりである。
犯罪被害者等の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律
第九条 次に掲げる罪に係る刑事被告事件(刑事訴訟法 の被害者又はその一般承継
第四百五十一条第一項の規定により更に審判をするこ
ととされたものを除く。)
人は、当該被告事件の係属する裁判所(地方裁判所に
限る。)に対し、その弁論の終結までに、損害賠償命
令(当該被告事件に係る訴因として特定された事実を
原因とする不法行為に基づく損害賠償の請求(これに
附帯する損害賠償の請求を含む。)について、その賠 の申立
償を被告人に命ずることをいう。以下同じ。)
てをすることができる。
一 故意の犯罪行為により人を死傷させた罪又はその
未遂罪
二 次に掲げる罪又はその未遂罪
イ 刑法(明治四十年法律第四十五号)第百七十六
条から第百七十八条まで(強制わいせつ、強姦、
準強制わいせつ及び準強姦)の罪
ロ 刑法第二百二十条(逮捕及び監禁)の罪
ハ 刑法第二百二十四条から第二百二十七条まで(
未成年者略取及び誘拐、営利目的等略取及び誘拐
、身の代金目的略取等、所在国外移送目的略取及
び誘拐、人身売買、被略取者等所在国外移送、被
略取者引渡し等)の罪
ニ イからハまでに掲げる罪のほか、その犯罪行為
にこれらの罪の犯罪行為を含む罪(前号に掲げる
罪を除く。)
前に書いたとおり,この法律には,種々の批判が可能である。つまり,以下にかかわる問題である。
1 刑事手続の成果利用。
2 有罪判決の後の手続開始。
3 同一裁判所が民事手続をやる。
4 損害賠償請求で,刑事裁判終了後,事実上,心証を持ち越す。
5 生命・身体の被害 ダメージが大きいので,簡易迅速
6 <損害賠償命令>にしても<被害者参加>にしても,対象事件は,被害者は単なる<処罰請求心>でなく,<復讐心>をもちたくなる事件だ。そこに注意しないといけない。
「1〜4」について
民事訴訟でも,刑事訴訟でも「関連事件」について関与した裁判官(裁判所)は,除斥・忌避・回避になる。
http://homepage3.nifty.com/office-wada/edu/recusation.html
しかし,このたびの法案は,被告人に対して有罪判決を下した刑事裁判所(裁判官)が引き続いて損害賠償命令事件を審理するのである(このたびの法案は,その辺が売り・ミソなのだ)。
そりゃいくら何でも酷いんじゃないのかい?
刑事事件で有罪判決を受けた被告人が「呼出状」をもらい,審尋室に出頭する。そしたら,また,同じ裁判官!! どんな気分になるだろう。これ以上の説明を要するまい。まして,当該裁判官は被告・弁護人の無罪主張を排斥して有罪判決を出しているのかも知れない。
「5・6」
対象事件の主立ったものは,「殺人・強盗殺人・傷害致死」,「性犯罪」などであり,財産犯罪は対象事件でない。「交通犯罪−業務上過失致死傷」はなぜか,「被害者参加対象事件」であるが,損害賠償命令申立対象事件にはなっていない。
第三節 被害者参加
第三百十六条の三十三 裁判所は、次に掲げる罪に係る
被告事件の被害者等若しくは当該被害者の法定代理人
又はこれらの者から委託を受けた弁護士から、被告事
件の手続への参加の申出があるときは、被告人又は弁
護人の意見を聴き、犯罪の性質、被告人との関係その
他の事情を考慮し、相当と認めるときは、決定で、当
該被害者等又は当該被害者の法定代理人の被告事件の
手続への参加を許すものとする。
二 第二百十一条第一項
これらの犯罪被害者・遺族(業過を含め)の心情は理性的なものではないことが多い。つまり,単なる「適当な処罰・相応の損害賠償を求める心情」でなく「加害者を八つ裂きにしたい,殺してやりたい,同じような思いをさせたい,一生赦さない」というものだ。
これらの「被害者」が「バーの中」に入ってきたらどうなるだろうか? (続く)
憲法第37条
すべて刑事事件においては、被告人は、公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利を有する。