書きかけの原稿(光市母子殺害事件)

 以下,キリスト教系雑誌「ハーザー」最新号の予定稿から一部抜粋する。この事件の推移を知っている者としてある程度の情報を公開する義務があると思うので・・・。




(2) 「光市母子殺害事件
 山口県光市内で発生した母子殺人事件は,読者もご承知だろう。犯行当時18歳の少年に対し地裁・高裁が無期懲役の判決を言い渡し,最高裁が「死刑の余地がないか再審査せよ」という趣旨で,広島高裁に差し戻した事件である。
 最高裁の弁論で2人の弁護人が弁論を欠席し,マスメディアはこの弁護人らを非難した(安田弁護士はオウム真理教関係の事件で2回ほど顔を合わせたことがあり,もう一人の足立弁護士は司法研修所の同期である)。「かなりの荒技だな」というのが私の感想であった。
 さて,最近にいたり,差し戻し裁判が始まり,21人の大弁護団が編成された。
 「弁護団の法廷における主張が下品極まりなく,被害者の人権を侵害するものだ」という論調のメディア報道が多くなされた。
 程なくして,この21名に対し懲戒請求をしようという動きがインターネット上で始まった。火付け役は,橋下某というタレント弁護士のワイドショーにおける発言らしい(私は,テレビはクラシック音楽番組とニュースしか見ないので橋下と言う弁護士がどういう人物なのかほとんど知らない)。
 実は,インターネット上における懲戒請求の呼びかけ人からメールが来た。どうも,私のブログを見てメールを寄こしたらしい。恐らく,ブログを運営している弁護士に手当たり次第にメールしたものだろう。
 以下,メールの抜粋(6月4日受信)。
始めまして。Barl-Karth様。21人の弁護士に懲戒請求を求める ---光市母子殺害事件-- @ ウィキhttp://XXXXXXXXXX/
 私↑のサイトの管理人で、光市母子殺害事件の被告側の弁護士に懲戒請求をかけるために動いています。この21人の弁護士に懲戒請求をかける動きが起こっている理由は、TVや新聞の報道や同じ弁護士ということで話題になっていて、ご存知だと思います。さて、メールをさせていただいた用件ですが、ネット等で21人の弁護士に懲戒請求をかける動きが出ていることを、少しでも知っていただきたかったからです。ブログでこのサイトのことをどんな形でよいので、取り上げて欲しいです。また、弁護士仲間の飲み会で「そういえば光市の事件でネットでこんな動きがあるよ」と話のネタにしていただけるだけで十分です。

 文体がいかにも幼い感じで,よく考えもせず,弁護士橋下某の扇動に踊らされていることは明らかであった。上記サイトをクリックしてみたら,「私も懲戒請求しました」というコメントであふれかえっており,「これはただごとじゃないぞ」と思った。
 6月14日,一通のファックスを受け取った。「弁護活動に対する違法な攻撃を許さない弁護士緊急アピールの呼びかけ」という文書である「テレビのワイドショーでは,弁護士が,弁護人に対する懲戒請求を慫慂し,これに呼応してインターネットでは懲戒請求書のフォームが出回り,夥しい懲戒請求書が弁護人らの所属弁護士会に届いています。」という内容である。
 呼びかけ人弁護士は46人に渡る。半分くらいの弁護士と面識がある。面識があるというよりも,所属している派閥や日弁連会内政治上の立場から言えば,ほとんどが私と考えを異にする「論敵」である(「刑事専門弁護士」というのは決して一枚岩ではない。むしろ「傾向」「思想」「イデオロギー」の相違で,喧嘩ばかりしているというのが実態である)。
 このアピールには,賛同人として名前を連ねることにした。私と同じように賛同人となった弁護士は(私を含め)508人いる。最近のインターネット上の論調ではこの508名に懲戒請求をしようという動きもあるらしい。なんだか,収拾のつかない事態になっている様子だ。508人に懲戒請求が掛けられたら,上記と同様のアピール呼びかけがあり,この呼びかけに賛同した弁護士に懲戒請求が掛けられ,またもや上記と同様のアピール呼びかけがあり,(以下同様)マルチ商法みたいなことになってしまう。ついに弁護士の人数が足りなくなり,「元祖」被懲戒弁護士と被懲戒「子」弁護士と被懲戒「孫」弁護士とがが相互(三つ巴)に呼びかけをしたりして,誰が誰に呼びかけているのか系統図を書いても分からなくなる。)


 この事件の高裁判決は,それほど遅くない時期に言い渡されるであろう。ハーザー読者の諸氏も様々な意見を持たれるのではないかと思われる。
1 被告人に死刑が言い渡されるべきか? 
2 そもそも「死刑制度」に賛成か・反対か?
 
 私は1・2に関して,ハーザー誌上で意見を表明するつもりはない。しかし,どのような立場を取るにせよ,死刑事件の弁護を敢えて引き受ける弁護人(さらに言えば死刑を求刑する検察官・死刑判決を言い渡す裁判官)の「職責」というものを考えてほしいと思う。弁護人はもちろん,検察官も裁判官も「死刑事件にだけはかかわりたくない」というのが本音なのだが,どうしても「職責」から逃れることができない場合もあるのだ。


 ついでに言うが,そのような職責から,国民であるあなたも−裁判員に選ばれて−,逃れられなくなる可能性がある。