朝鮮総聯移転登記の件(以下,検索サイトの便宜のため「朝鮮総連」と記する)

 これから記載・論及する事項は法律の素人にはなかなか理解できなものである。おそらく本職の法律家でも私の論考を理解するのに時間が掛かるかも知れない。単にトピカルなあるいはスキャンダラスな話題を追い求めてこのブログにアクセスした人は,理解できないだろう。どちらかというと,同業者・司法修習生法科大学院生向けのネタである。 

1 報道の当初,この事件は朝鮮総連と緒方弁護士との共謀による強制競売逃れなのかと思った。
 しかし,(当事務所の事務員さんと語り合っていたのだが)このようなやり方は「強制執行逃れ」としては,余りにも稚拙だし,直ぐに債権者に対抗策を講じられる。我が事務所は,「事件屋」による「財産隠し」と闘った経験(刑事告訴・民事保全・民事提訴)が何回かあるので,連中の手口はある程度知悉している(「所有権を譲り受けたけれども,不動産取得税の工面ができないため移転登記をしなかった」と主張する当事者と闘ったこともある)。
 プロの事件屋がやる「強制執行免脱(民事法的に言えば詐害行為・通謀虚偽表示)」はもう少しやり方が複雑だ。たとえばの話,強制執行が迫った後,
 (1)    事件屋と債務者が結託し,虚偽の(あるいは真性の)債務(債権)を作り上げる。
 (2)ア  当該の債務(債権)を被担保債権として,虚偽の(あるいは真性の)担保権を設定する。
 (2)イ  当該の債務(債権)の代物弁済を原因として,虚偽の(あるいは真性の)所有権移転契約,移転登記を行う。
 (もう少し手が込むと虚偽の(あるいは真性の)債権(債務)の譲受人が介在し,債権譲渡人(債務者)から内容証明郵便が発せられる。)

2 強制執行逃れのため「仮装の売買契約」という手口は余りにも稚拙すぎる。
 RCCとしては,売り主(朝鮮総連)の買い主(緒方弁護士が経営するペーパーカンパニー)に対する「売買代金請求権」を差し押さえて,裁判所から転付命令を得ることとなる。
 緒方側が転付命令に従わない場合,RCCは緒方側を被告として取立訴訟を提起する。
 緒方側の主張として以下のようなものが予想される。
 「あの売買は通謀虚偽表示でした」←エストッペルで(94条2項? 調査中)「緒方側は売買代金をRCCに支払え」との判決となろう。あるいは,RCCは「所有権に基づく抹消登記請求権」を債権者代位権で行使して,強制競売に着手することになろう。
 「あの売買は,詐害行為でした」←「詐害行為取消&抹消登記→差押え」

2 登記移転義務を先履行したのはなぜ?
 この点については,私も分析しきいれない。通常,不動産売買契約は,両当事者と司法書士が一堂に会し所有権移転登記必要書類と売買代金(現金か預手か,債務者から債権者口座への送金振込)を同時に行う。なぜ朝鮮総連が,移転登記を先履行したのか??? よく分からない。

3 石原都知事は,不動産取得税を取れるか?
 おそらく,緒方側から不動産取得税を取れるだろう。分析すると以下のとおり。
 緒方側が,「あれは本当に所有権を移転してもらったんです。仮装ではありませんし朝鮮総連を騙したわけでもありません」と主張したら,間違いなく緒方側から税金を取れる。朝鮮総連から税金は取れない。
 緒方側が「あれは本当に所有権を移転してもらったんです。仮装ではありません。でも,騙して所有権を移転してもらったんです」と主張したら,間違いなく緒方側から税金を取れる。朝鮮総連から税金は取れない。。この場合,朝鮮総連は詐欺による意思表示の取消→移転登記抹消請求権を有する。しかしこのたびの事件は,朝鮮総連と緒方側とで話し合いにより,朝鮮総連への登記回復(移転登記??)がなされたそうだ。これは,「詐欺による売買契約の取消←所有権抹消登記請求」の省略形なのだから。
 緒方側が「あれは朝鮮総連と結託して所有権移転を仮装したものなんです」と主張したら,議論の余地はあるけれどもエストッペルで,税金を取れる。
 緒方側と朝鮮総連が結託していたとすれば,緒方側と朝鮮総連側から税金を二重取りできる。


 このほか,色々な可能性(32通りほどの可能性)があるのだが,分析は省略する。

 現時点における結論(緒方弁護士が,朝鮮総連を騙した←検察官のストーリー・事件の見立て)というのは,案外すっきり分かる。