亀井静香さんの対談録(裁判員)

 大久保太郎先生からは,亀井静香の対談録(「先見経済」という雑誌)もいただいた。周知のとおり,亀井静香は「裁判員死刑判決全員一致」ということを提言しており,相当の注目を集めている。「亀井と手を組めるか」は前から悩んでいたところだ。「終身刑導入→死刑の事実上の廃止」については,アムネスティのてらまこさんも困っている様子だった(てらまこさんとは日本刑法学会で,最近お会いし,新倉修先生のグループと一杯飲んだ)。

http://teramako.tea-nifty.com/

 「死刑判決全員一致(裁判員法改正)がとおらない限り,裁判員法は,廃止・延期すべし」という戦術であれば,辛うじて手は組めるだろうと思っていた。
 一般には入手しにくい雑誌なので,ここで,関係部分を一部紹介する。対談相手は,「殺人犯を裁けますか?〜裁判員制の問題点」の著者 田中克人(かつんど)

http://www.seiwakai.com/senken.html

量刑を切り口に
裁判員制度を変える

田中
 私は裁判員法の施行停止論者なのですが、先生は裁判員制度において死刑判決を下すときには、多数決ではなく、全員一致で行うべきだとおっしゃっておられますね。また、新しく終身刑の創設も言っておられる。
亀井
 裁判員法については与野党問わず、今、国会議員たちは皆「えっ」と言っています。自分達でつくっておきながら 「こんなことだったのか」と。だから、加藤紘一さんを会長にして「量刑を見直す会」を、死刑廃止論者も存置論者も一緒になって旗揚げをしました。現在100名ほどの賛同者がいます。裁判では、専門的な知識を持ちトレーニングを積んだ裁判官でも、証拠判断も含め真実の発見をし、適正な加刑を行うことは難しい。神ならぬ者が捜査をし、適正な処分を下すということは大変なことなんです。それを、なんら専門的なトレーニングをしていない人に、ある日突然「人を裁け」というのは迷惑な話です。しかも、与えられる期間は3日間。その上、死刑判決までありえるのですから。
田中
 そもそも、扱う事件は死刑等重罪事件に限られていますからね。
亀井 
 「こんなやり方で人間を扱っていいのか」というのが、私の想いです。裁判官はもちろん、裁判の前段階で、検察官や警察官が正しいことをやっている保証は1つもありません。これは私自身が警察官だったからこそ言うことでもあります。そう考えた場合、裁判が(専門バカ) の弊害に陥らないように外部の良識を取り入れていくことはいいことだと思います。ですが現在の制度では、選ばれた素人裁判員の方が、目の前で被害者に被疑者の非道を訴えられて泣かれてしまったら、冷静に判断ができるのか極めて疑問です。
田中
 今度、被害者も法廷で主張できるようになりましたからね。
亀井
 そんな状況なのに、来年5月から実施されようとしている。やはり、ここは一度立ち止まって、裁判について市民参加をどのようにすればよいかを考えるべきです。罪のない人が牢獄へつながれる、あるいは命を奪われることがないようにしなければなりません。今回の制度は、なにも急いでやる必要はありません。そうした中で、私は死刑制度をすぐになくすことは、国民感情から無理だと考えていますので、現状では死刑と無期の問に終身刑というものを入れたい。そうすれば、無期からいきなり死刑に飛躍することがありませんからね。例えば、「袴田事件」というものがありました。最近、判決文を起案した熊本元判事が、再審支援を申し出られた。多数決で死刑判決が決まっており、自分自身が無実だと思った人が処刑されるのは耐えられないと。この方はまだ職業裁判官ですから、決まりに従ってやらざるを得なかったと、自分の良心を納得させることができるかもしれません。、もっとも、結局は納得できなかったわけですがね。職業裁判官でさえそうなのですから、一般市民がそのような状況に陥ったとき、そんな <十字架> を一生背負って生きていくというのは酷なことです。
田中 
 それに、そうした悩みを裁判員は家族に話すこともできません。秘密漏洩で罪に問われてしまいます。
亀井
 誰にも相談できず、孤独な判断、決断をせざるを得ないわけです。個人が予期せぬことを国家権力がやらせることに、私は問題があると思う。これは政治の失態、手抜かりです。
田中
 裁判員制については、自民党が10項目を超える付帯決議をつけています。それを一つひとつ確認すると、現状では絶対に施行できないはずなんです。それを一度、国会で確認すべきだと思います。
亀井
 ですが、全体を見直すといっても、なかなかうまくいかないものです。そのため、私は量刑を切り口に、裁判員制度の問題点を浮き彫りにしていきたいと考えています。施行が来年の5月ですから、もう時間がありません。正念場です。それでもやっていこうと思います。しかし、見ていると国会議員というのは法務省に弱い。法務省のやることに真っ向から反対するのは、勇気がいることです。
田中
 施行前に具体的に施行方法を、法務省なり最高裁判所なりに証明を求めることは、国民のためにも必要なことです。問題点が必ず出てきます。そうなると、マスコミも正面から制度そのものが問題であると取り上げることができ、反対の世論が高まりますね。