青法協は?

 以上紹介したのは,右派・保守派側からの「反裁判員」の論考である。それでは,左派法律家団体といわれている青年法律家協会は,裁判員制度についてどのような見解なのだろうか?
 折良く,本年6月28〜29日,福岡県内で,青法協第39回定時総会が行われることとなっており,本日,「議案書」が郵送されてきたので,一部を抜粋する。
 福岡県内のどこで開催されるかは,公安調査庁にまたもや調査されると不愉快なので,公開しない。

http://www.seihokyo.jp/
(やっぱり,左派の言説って,右派の人より分かりにくいと思う。就中,青法協というのは,「ちょっとだけリベラルでちょっと右〜極左」までごった煮なので,取りまとめは難しいだろう)。

? 司法課題に対する取り組み
 2004年5月に立法化された裁判員制度は、2009年5月21日から実施される見通しとなった。刑事事件につき、3人の職業裁判官と、無作為に選任された一般国民である裁判員が合議体を構成し、一定の重大事件にかぎり、自白・否認の区別なく裁判を行う。しかも、有罪無罪の判断だけではなく、量刑も判断の対象になり、他方で法令および手続きに関する判断は裁判官のみで行う。
 また、審理の短縮化のために、裁判官のみによって実施される公判前整理手続を実施し、争点の整理と証拠決定を公判前に行うこと、公判段階ではやむを得ない理由による場合以外、新たな証拠請求を認めないものとされた。
 このような裁判員制度の導入によって国民の健全な社会常識が裁判に反映され、国民の司法に対する理解と支持が深まり、構造改革のもとでルール違反に対する効果的な制裁(刑罰)を実現するために必要な、強固な国民的基盤を得ることができる。これが、司法制度改革審議会の意見書による制度の説明であった。また、硬直した官僚司法制度を打開し、司法の民主化を実現するためには、裁判員制度の実現を挺子にして、事態の打開をはかるしかないという見解も根強い。
 これに対し、国民の常識を反映するといっても、専門家である裁判官が3人も加わる合議体で、素人である裁判員が意見を表明し、貫き通すことがどれほど可能なのか、しかも、公判前整理手続によって、争点整理と証拠決定まで終わった段階から関与する裁判員は、事件についての情報量においてすら大きな格差をつけられており、そのような立場では裁判官の意見に抗して見解を表明することは困難であろうという批判がある。この批判は、むしろ裁判員は裁判官の意見に追従し、裁判官による裁判に国民参加というお墨付きを与えるだけになることを懸念している。
 さらに、立法後今日までの社会的な変化が指摘される。治安の悪化が強調され、「市民の敵」からの防衛を求めるマスコミの論調のもと、社会意識と立法の両面において刑罰化、重罰化がすすめられている。刑罰法の制定・強化、法定刑の引き上げが繰り返され、そのような中で、実際の刑事訴訟においても、量刑水準の重罰化が顕著にすすんでいる。また、被害者の刑事手続参加が立法化され、被害感情ないし報復感情が直接法廷に持ち込まれることになった。
 このような社会情勢の変化ないし深化は、裁判員法制定時にはなかったことであり、こうした状況の中で一般国民が「健全な社会常識」を反映させるために裁判に加わることは、刑事手続の「刑罰化、重罰化」を極端に推進することを招来する可能性が大きい。それが、真に国民の意思ないし利益に通ったものなのか、適切な事態なのか、懸念の声は依然として大きいのである。
 そのような懸念の表れとして、裁判員制度の実施を延期すべきであるという新潟県弁護士会の決議など、再検討を求める意見がだされるに至り、他方で国民の世論としても、裁判員として裁判に関わりたくないという意見が7割を超えるという実情も一つにはそうした懸念を反映するところである。団藤重光元最高裁判事は、一般国民に死刑の宣告までなさせる立法例は諸外国にも見あたらないという指摘をしている。陪審員は一般に量刑判断に関与せず、参審制を採用している国は死刑を廃止しているという歴史的事実がそこにある。
 こうしたさまざまな指摘の中、正しい事実認定、適切な量刑判断が裁判員制度の下で確保できるのかどうか、あと1年を切った現在、最後の検討と決断が求められる段階にある。
(2)公判前整理手続
2005年11月から実施されている公判前整理手続は、裁判員裁判対象事件を中心に広く行われている。
 証拠開示制度の拡大、保釈実務の改善など、積極的な評価を受けている面もあるが、裁判所の裁量に委ねられている状況にある審理のすすめ方、証拠開示に対する検察側の消極的姿勢と裁判所による追認、公判前整理手続後の証拠制限規定等々、実践が積み重ねられていくにつれて、矛盾、問題点が指摘されるようになっている。
 この公判前整理手続については、予断排除、黙秘権などの被告人の諸権利との関係での基本的な問題や、前記公判段階の証拠制限の問題など、立法段階から問題点が指摘されていたところでもある。現在の制度のもとで、弁護人が最善の努力をすべきなのは言うまでもないが、2009年5月に実施される予定の裁判員裁判をひかえ、この間の実績に照らして、あらためて制度そのものの妥当性、憲法適合性についても再検討するべき時期にある。
加えて、裁判員と裁判官の間における情報量格差の問題など、懸念は多い。
 弁学合同部会としては、刑事司法チームを中心に、今後こうした点について引き続き検討と問題提起を続けていく。<<