N家裁所長のこと

 地裁所長と異なり,田舎の家裁所長は,調停事件の主任裁判官となることがある。そういう場合,裁判官(家事審判官)は,調停委員(夫婦関係調停では年配の男女がペア)からの報告を聞いて,方針を決めたりするという間接的な役割が多い。
 ところが最近赴任してきたN家裁所長は,自ら調停室に入り,事件を仕切ることがお好きらしい。
 ある調停事件で,突然所長がノックもせず調停室に入ってきて,驚いた。記録をものすごく読み込んでいる様子は窺知できた。言うことがいちいち的確なのだ。
 以下所長の説示 要約

 ○○さん。恋人同士の関係の場合,パートナーは甘いことを言うに決まっていますよ。自分を気に入ってほしいと思っているのですから。デートの時間なんて,長くても3−4時間だから,ボロは出ないのです。
 でも,結婚して夫婦となるとね。一日16時間くらい顔と顔をつきあわせないといけない。それくらい付き合っていたら,配偶者の悪いところをどうしても見ることになる。まぁ,だんだん慣れてくるのですが・・・。夫婦というのは,お互いに我慢しながら連れ添っていくものでしょう。うちの妻も・・・(以下省略)。
 だからもう二度と不倫はしないでくださいね。

 所長の味わい深い(人生経験に基づいた??)説示のおかげで,3−4回の期日を経て,調停離婚が成立し(財産分与も慰謝料もきわめて的確なものに落ち着いた),当方依頼者も先方もお互いスッキリした様子だった。「今この瞬間,離婚が成立したのです。忘れないで,調停調書を役場に届け出てくださいね」と当職が述べたら,当方依頼者は,本当にうれしそうだった。