カトリック信徒の見解

 カトリックのついでに(というと失礼だが)広島大学名誉教授金澤文雄先生のご見解を紹介しよう。
 金澤先生のご尊顔は,数年前,広島大学で開催された日本刑法学会で拝したのが最初であった。大会の開催に際し,主催校代表者としてあいさつされ,「ここ(サタケメモリアルホール)の緞帳を開け閉めすると1回あたり数千円取られる」とおっしゃっていた。
 金澤先生は,古き良きローマカトリック信徒(社会的政治的立場はリベラル,信仰的立場は,保守),ホセ・ヨンパルト先生とともにカトリック自然法思想の王道を行かれている方である。退官後故郷新潟に戻られて,現在は,中央区西大畑のカトリック新潟教会(司教座聖堂 司教猊下は 神言会 所属)。新潟水俣病の集会にもおいでいただいた。
 「今この時代をどうとらえるか」という点に関しては,鋭敏なセンスをもっておられる。
 学生運動・労働運動に関わっていたある青年が免状不実記載(免許証記載住所と現実の住所が違う)で逮捕された事件について,金澤先生は,以下のように述べられた。

 金澤「逮捕されるなんて当たり前でしょう?」 
 問「どうして?」
 金澤「だって,今の日本は戦前そのものなんだよ。だからそれくらい当たり前でしょ。」


 以下,金澤先生が,新潟の反裁判員デモに寄せられたメッセージ

 私も皆様と同様に裁判員制度に強く反対します。裁判員法は,無益,有害,憲法違反の悪法だからです。刑事裁判で事実を認定し,法を適用し,刑を決めることは素人のできることではありません。
 日本の最高の法学者で最高裁判事だった団藤重光先生でさえ,「裁判員制度は本当に困ったものです・・・くだらないの一言に尽きるんです・・・司法部の人たちだってこの先どうなってゆくか(中略)誰れもまったく分からない・・・絶対にいけません」といい,先日も「死刑制度の廃止なくして裁判員制度はあり得ない」と断言されています。
 裁判員制度は国民を強制して思想・良心の自由を奪うばかりか,被告人の裁判を受ける権利を侵害するという点で憲法違反です。新潟大学の西野喜一先生が裁判員制度を徹底的に批判し「違憲のデパート」といわれたとおりです。
 この法律は新しい多くの罰則を設けました。例えば,裁判員に依頼したり意見を述べると2年以下の懲役,裁判員が秘密をもらすと6月以下の懲役などと十数種の罰則を作りました。出頭しないだけでも過料など強制そのものです。裁判の民主化どころか古い徴兵制度にそっくりです。戦前の国家主義がまだ残っているのです。
 さらに悪いことには,この制度には莫大なお金がかかることです。戦前の陪審制もそれで止めになったのです。この大金は医療や福祉や教育に回すべきです。
 裁判員制度小泉改革の最悪の遺物といえるでしょう。国民は,昔のように,事実を知らず「大本営発表」だけを信じていてはいけません。戦前をくりかえさないために反対の声をあげなければならない時です。

〔引用文〕
 団藤重光「反骨のコツ」朝日新書2007年10月132頁以下153頁,同「反骨精神を貫いて1」日経2009年3月23日,西野喜一「裁判員制度の正体」講談社現代新書2007年8月。