恩師の思ひで

 私の刑法学の師匠は林美月子(ゼミ所属)と山火正則(刑法特殊講義-3年生以上聴講可なのだが,特例で2年生から入れてもらった。実質的にはゼミみたいなもの)である(対外的な文章で,恩師に言及する際は,「先生」等の敬称は付けない。これは「部長様は離籍中です」とか「弁護士先生は外出しています」というのと同じ)。
 あとどうしてか分からないが,無理矢理橘川俊忠ゼミ合宿(河口湖)に強制入部させられ,合宿で中島敦とかを無理矢理読まされてレポートを作成した。橘川は「醢」という文字が読めなかったので,読み方を教えて差し上げた。どうも,フロント出身で,静岡県弁護士会中村順英元副会長と仲良しらしい。

 山火からは「全国各地の違式註違条例の資料を収集しているので協力してくれないか」と言われた(電話連絡)。

http://www.ohayo-sanspo.net/dic/term2005/lw/0/011001.html

 青木太一郎 新潟県議は建設公安委員会所属なので,県警本部に顔が利き,そのつてで,何とか「新潟バージョン」を入手できそうな模様で,恩師の學恩に報いることができそうだ。
 「新潟は明治初期に開港した港町なので,何かしら,ローカルルールがあるはずだ」と言うことである。県立図書館の貴重文書庫に蔵書されているが,本がボロボロでコピー不可とのこと。教授御自ら新潟に赴かれるらしい。

 林美月子は,29歳のころ,神奈川大学に専任講師として採用され(既に博士号取得済み),その頃僕は,19歳の美少年であった。
 林ゼミの入室試験は過酷なものであった。「<論文 情動行為と刑事責任>を読破して,この論文に徹底的批判を加えよ」というものであった。後日教授室のドアに「全員合格とします」との張り紙があった。ゼミ報告もこれまた過酷なもので<「団藤古希記念論文集」を読んで,報告・批評せよ>と言うことで,私は,報告当番の際は徹夜でレジュメを仕上げ,これを輪転機で青焼きしていた。
 ゼミ論文(実質上私の単独執筆)は「ユーザーユニオン事件に関する一考察 消費者運動の刑事法的限界」


 こないだ刑法学会でお会いしたら,お互い約30歳加齢していたが,先生は今でも若々しい。

http://www.h4.dion.ne.jp/~jssf/text/doukousp/pdf/200708/0708_0074.pdf

例えば人の時計を壊すつもりで盗んでも窃盗にならないとか

 弁護士になって6年目くらいに変な窃盗事件の国選弁護をした。100円玉を入れてハンドルを回すと商品が出てくる販売機がある(ガチャガチャ?)被告人はこれを盗んで,窃盗罪として起訴された。
 被告人が言うには,「ほしかったのは,販売機に貯蔵されている100円玉だけで,販売機本体や内部の商品には興味はなかった。だから,販売機から100円玉を取り出したあと,販売機は,橋から川に投げ捨てた」というのである。これを裏付ける捜査報告書も存在した。100円玉は,20枚くらいしかなかったのだが,販売機と商品の時価は,数万円する。
 で,当職は「販売機等は捨てるために占有を奪ったに過ぎないから,これについては,器物損壊罪が成立するに過ぎない。被告人の行為は,2000円の窃盗罪と器物損壊罪の牽連犯である(廃棄物処理法違反に該当する行為でもあるが,訴因になってない)。検察官は,訴因を変更すべきだ。<数万2000円>が窃盗被害額という検察官主張は誤りだ!」と弁論した(異例の弁論なので,弁論要旨を事前に提出した)。
 そうしたら,裁判官や検察官(副検事)から「中野次雄判事の調査官解説だか論文がある」と指摘され,判決でも当職の見解は一蹴された。
 あらかじめ罪数論の大家 山火教授と不法領得の意思の若き旗手 林教授の意見を仰げば良かった。そうすれば,画期的判決が出て,新発田簡易裁判所の名判決が判例集に搭載されたかもしれない。

その後は、刑法の講義と並行して、自分の関心のあるテーマについて、ドイツ、アメリカを問わず研究していった。理論的、基礎的な研究であったが、拙稿を読んでいただいた何人かの弁護士の方から、法廷で私の研究を弁護人の主張に取り入れたいという相談を受けた。

 相談した弁護人の一人は,不肖の一番弟子 私である。詳細はぼかしておくが,私が弁護(私選)した事件の被告人は,数ヶ月前から家族との仲が険悪であり,数日間寝付けない状態だったという。それで「鬱憤晴らし」という感じで,犯罪に走った。これは,情動行為でいう「布置因子」じゃないか? と思った。
 で,林教授に「先生の単行本『情動行為と責任能力』は入手できますか?」と電話で聞いたら,
「とっくに品切れ,大学の紀要(3回連載ならあるから,無料でもらえるよ」
というので無償でもらって,「証拠物」として提出した。
 そうしたところ,大谷吉史裁判長から「その本なら,裁判所の資料室にありますが,一応,紀要を証拠物として領置します」と言われた。
 で,「情動行為 心神耗弱」という弁論をしたが,「量刑理由」として少しばかり当職の意見が採用されたに過ぎなかった。

 罪数論とか,責任能力については,言いたいことがたくさんあるので,また書きます。

(林教授は,「裁判員責任能力の判断をさせるのは無理」との見地から,裁判員制度に反対しておられる。)