伝聞供述再論

 伝聞供述については,このブログでも時々書いていて,真面目な論考は下記のとおり。
http://d.hatena.ne.jp/Barl-Karth/20080124
 昨日,自宅でワインを飲みながら,教会法の本を読んでいて,ふと伝聞供述のことが頭に浮かんだ(どういう思考回路なんだぁ)。
 未定稿なメモに過ぎないが,忘れる前に書いておく。くれぐれも法科大学院生や修習生は,私の論考を真に受けないように。むしろ,コメント欄における批判を期待する。
 
1 証人から,伝聞供述(と思われる供述)がなされる。
2 弁護人は証拠排除申請としての異議を述べる。
規則第205条の6 2 取り調べた証拠が証拠とすることができないものであることを理由とする異議の申立を理由があると認めるときは、その証拠の全部又は一部を排除する決定をしなければならない。
 「証拠の採否」ではなく「証拠排除申請」である。それはそうだろう。証人から伝聞供述(と思われる供述)がなされてしまった以上,その瞬間,それは裁判官の耳に入り,実体形成の素材となってしまっている。
3 伝聞供述(と思われるもの)の悩ましいところは,「伝聞もどき」の問題である。「アンドロメダの帝王」とか「白鳥はもう殺してもいいやつだ」の話。つまり,「伝聞例外」の問題に入る前に「伝聞に該当するか」という問題が生ずる。検察官は,たいてい,「今の証言は,伝聞供述ではない」という意見を述べてくる。
4 裁判所は,弁護人による「規則第205条の6」異議に対しては,直ちには,理由の有無(205条の6をもう一度読んでもらいたい)の判断→排除決定or排除しない決定はしない。裁判所は,当該証人の当該証言が「伝聞供述であるかどうか」の判断もしない(そういう条文もない)。
5 <裁判所は,当該証人の当該証言が「伝聞供述であるかどうか」の判断もしない>というのは,実を言うと具合が悪い。
 典型的な伝聞証拠(例えば検面調書)は,−弁護人が不同意意見の後−検察官側が,「321条第1項第3号に基づく証拠調べ請求」の申立をする。申立に際しては,「供述相反性」「特信性」を主張する書面を提出する。また,その主張に備えて,当該証人に対して,「供述相反性」「特信性」に関する尋問をする。その上で,証拠採用決定へと至る(弁護人は,弁論要旨において,証拠採用は違法だから「証拠排除申請する」と申し立てるのだが,判決で「理由がない」と言われるのが通例)。
6 しかし,証人による伝聞供述の場合は,こういう順番を踏まない。これは,いわゆる3号書面との対比から見て具合が悪い。そういう風に考えると,伝聞供述(と思われる供述)が証言されたら,裁判官は,弁護人の異議を受けた後,直ちに「伝聞供述であるか否かの決定」をすべきである。
「伝聞供述でない」という決定がでたら,第1ラウンドで,弁護人の負けとなる。
7 「伝聞供述である」との決定を受けたら,第2ラウンドに舞台が移る。つまり,検察官が当該伝聞供述に,「供述相反性」「特信性」があることを主張・立証しなければならない。
8 裁判官は,検察官のこれらについての主張・立証を経た後,規則205条にいう「異議の申立を理由があると認める」かどうかの決定(証拠排除決定)をしなければならない。検察官の主張立証に「理由なし」の場合,裁判所は,証拠排除決定をする。「理由あり」の場合,弁護人の205条の6の異議は棄却される。
9 実務はそうなっていない。私の経験では,裁判官は,証拠排除申請(弁護人の異議)について,訴訟の終局段階で,「1 伝聞供述に該当 2原供述者が国外にいる(or相反性あり) 3特信性あり 結論 証拠排除申請に理由なし。」との決定をする。 PSとの対比で言えば2・3については検察官に主張責任があるはずなのだから,やっぱりこれはおかしい。家に帰ったら,石井一正をもう一度読んでみよう。