大統領事件

 水俣病関係の判決例を集めていたら,「大統領事件」青梅簡易裁判所平成15年(ハ)第152号平成15年10月28日判決というのを拾ってしまった。
 ずいぶん昔に判例評釈を書いたことがあるのだが,懐かしいので再掲する。
 原告は,「大統領」と言う人らしい。
 実は,数年前,控訴審の法廷に出向いたら「控訴人 大統領」という事件の表示があったので,びっくりして,廷吏さん(若い女性)に「<大統領>ってありですか?」と聴いたら,「それは,裁判長に聴いてみてくださいね。うふふ」と言われた。

被告の主張
(3) 一般的に「大統領」という呼称が,個人の通称として社会的に認知されることは,「大統領」という言葉の有する本来的な意味から極めて困難であると思われる。従って,「大統領」というような呼称が個人の通称として社会的に定着しているといえるケースは,ジャンボ(尾崎将司)・ミスター(長島茂雄)・ゴジラ松井秀喜)・イチロー(鈴木一郎)・大魔神(佐々木一浩)・タモリ森田一義)というような特別な場合しかあり得ず,一般的には考えられないというべきである。

第3 争点に対する判断
 1 争点1について
   当裁判所は,原告提出の訴状の原告欄の「大 統領」との記載のみでは原告の特定に疑義があるので,本件原告を特定することができるか否かを調査するために,原告に対して「大 統領は本名であるか」との旨の質問をしたところ,原告は,戸籍上の氏名はAである旨答えた。
 原告は,前記質問に答えた後,原告名を補正するかとの旨の当裁判所の質問に対して,補正しない旨答え,大 統領との名称を維持する意向を示した。
 そこで,当裁判所は職権により,訴状の原告欄に「大 統領」との表示がある事実,前記原告が補正しないと答えた事実及び前記原告が戸籍上の氏名はAであると答えた事実に基づいて,本件の当事者である原告を特定する表示を「大 統領ことA」と認定した。
 してみると,以上の経過により,本件の原告は,「大 統領ことA」と特定できたので,被告の同申立は理由がなくなったものである。