意見書

平成21年(わ)第XXX号等
被告人 XXXXX          

意見書          
平成21年10月9日
新潟地方裁判所 刑事部 御中

弁護人 弁護士 Barl-Karth           

 上記被告人に対する住居侵入,窃盗,窃盗未遂,強制わいせつ,強姦未遂,強制わいせつ致傷被告事件の今後の訴訟進行等について,弁護人の意見は,以下のとおりである。

第1 考えられる審理方法
1 被告人に対する公訴事実は,裁判員対象事件(以下「対象事件」という)である強制わいせつ致傷と非対象事件である強制わいせつ,強姦未遂,窃盗その他の事件があり,すべて併合罪の関係にある。
2 現時点では,公訴提起済みの非対象事件はそのすべてについて,併合決定されているが,公判期日が取り消されており,他方,対象事件については,非対象事件との併合決定はされていない状態である。
3 被告人に対しては,今後も強制わいせつや窃盗について,追起訴が見込まれる。
4 そこで,これらの事件について,今後の訴訟進行が問題となるが,論理的には,以下の4個の進め方が考えられる。
(1) 全部を非裁判員の公判廷で審理・判決する。
(2) 対象事件と非対象事件とを併合せず,裁判員裁判と非裁判員裁判とで,複数の判決を言い渡す。
(3)  非対象事件を非裁判員の公判で可能な限り審理を進め,時機を見て,対象事件に併合し,公判手続更新の上,裁判員法廷で審理・判決する。
(4) 対象事件を非対象事件に併合の上,冒頭手続の段階から裁判員法廷で,審理・判決する。
第2 比較衡量
1 弁護人の基本的な考え方
 弁論の併合については,刑事訴訟法裁判員法も「適当と認めるときは」「適当と認められるものについては」との規定があるだけであり,裁判所の自由裁量を認めているようにも見える。
しかしながら,併合罪による刑の軽減規定(単純・機械的な刑の加算と比較すれば,我が刑法は,併合罪について刑の軽減主義をとっていると見られる)は,訴訟法においても重視すべき要請であり,併合罪関係にある公訴事実は,可能な限り併合審理の上,1個の判決を言い渡すべきであると考える。これは,刑訴法の通説と思われるし,従前の実務上の運用も同様である。
この視点から,上記に述べた各類型について,検討する。
2 比較衡量
(1)型について
  (1)型は,裁判員法が憲法違反であるという立論を前提とするものである。当弁護人の意見も同様であり,10月中に意見書(裁判員制度違憲であり,職業裁判官による法廷で審理・判決をすることを求めるもの)を提出する予定である。
(2)型について
(2)型は,先に述べた刑法,刑事訴訟法の基本原理に反するものであり,弁護人としては,賛同できない。
この点,裁判員の負担の軽減という点が問題となるが,このような単なる政策的要請を,刑事法の基本原理や被告人の利益に優先させる考え方は相当でない。司法研修所編「裁判員制度の下における大型否認事件の審理の在り方」(43頁以下)を見ても,併合処理が望ましくない事例として,殺人罪と窃盗罪(特に窃盗が否認の場合や窃盗事件について,審理が先行した場合)が例示されているだけであり,本件のように,性犯罪という点で罪種を同じくする「対象事件」と「非対象事件」については,言及がない。
実務的見地から見ても,併合罪の関係にある公訴事実について,別個の裁判体で判決が言い渡されるのは,一方の事件について,審理がほぼ尽くされており,事件を併合した場合,他方の事件について審理判決が遅滞してしまうような例外的な場合に限られているものと思われる。
先行する判決を勘案の上,後行する判決の量刑を決めればよいと言う考え方もあり得るが,それは,前記したような事例における便法的な措置であろう。のみならず,このような処理は,あくまでも便法であって,後行判決が刑の均衡に配慮したものになるという保障はどこにもないのである。
弁護人としては,性犯罪(非対象事件)が裁判員法廷で審理判決されることの不利益についても若干の憂慮がないでもないのだが,しかし,上記した諸々の問題を考えると,やはり(2)型には賛同できないものである。
(3)型について
(3)型については,以下のような問題点が指摘できる。
ア このような審理方法は,公判手続の更新を実施しなければならないところ,そもそも,公判手続の更新は,直接主義(「直接主義」は,多義的な概念であるが,ここでは,「自ら証拠調べを実施した裁判所が,判決を言い渡すべきである」という意味で用いる)に反するものであり,可能な限り避けるべきものである。
イ 従前の職業裁判員のみによる裁判においては,「従前どおり」ということで,簡略な形による更新手続が行われてきた。しかし,このような運用は,「裁判官は,事前・事後に一件記録を熟読して心証を形成する」という暗黙の前提の下にのみ許された方法であり,裁判員裁判における公判手続の更新においてはこのような方法は許されず,刑事訴訟規則213条の2で定められたとおりにこれを実施しなければならない。
ウ しかし,刑訴法規則どおりに公判手続を更新するのは,かなりの時間を要するであろう。冒頭手続から非対象事件を併合して,裁判員法廷で審理するのと,それほど審理期間は異ならないのではないだろうか。
その上,公判手続の更新を刑訴規則どおりに実施するとすると,併合前に取り調べられた証拠の朗読が手続の中心となると思われる。このような手続が,単調・平板なものになることは,容易に想像できることであり,裁判員が,そのような手続により,公判廷において,心証を形成できるかどうかは,大いに疑問がある。
エ 以上の点を考えると(3)型は望ましい手続進行ではなく,弁護人としては,賛同できない。
裁判員法は,第49条で「裁判所は、対象事件については、第一回の公判期日前に、これを公判前整理手続に付さなければならない。」と規定しているが,「弁論の併合で,対象事件として扱われる事件」についても,この規定の適用があるのかは必ずしも明らかではない。
3 弁護人の意見
以上述べたところから,自ずからあきらかと思われるが,弁護人の意見は,第一次的には(1)型,これがかなわない場合は,(4)型で審理が進められることを希望する。